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第59話

いつぶりだろうか。 こうして春樹と夜の営みに励むのは。 キスやハグは頻繁(ひんぱん)にするものの、素肌で触れ合うのは数ヶ月ぶりかもしれない。 「は……蓮人……れんと……」 「春樹さん……!」 お互いを(むさぼ)るような、濃密な口付けを繰り返しながら、ベッドに雪崩(なだ)れ込む。 (ふすま)を隔てた向こう側に芽が居るので、声を堪えなくてはならないが。 「大丈夫ですか?喘ぎ声、我慢出来ます?」 「ばっ!んな事言うんじゃねぇっ!」 わざとからかうと、春樹は耳まで真っ赤になり、(うぶ)なリアクションを返す。 最中は妖艶(ようえん)な表情を見せる癖に、未だに純粋そのものな彼を、心底愛おしく思った。 (春樹さんはやっぱり最高だ。もっともっと触れたい。もっともっと……) 白い柔肌(やわはだ)丹念(たんねん)に舐め回す。 気のせいだろうが、甘い味がした。 全身が高揚していくのが分かる。 のぼせ上がる。 母親になっても変わらぬ、いや年々増していく魅力に、蓮人は取り憑かれていた。 「可愛い……大好き……愛してる……」 繰り返し睦言(むつごと)を呟きながら、胸の突起を口に含もうとする。 ここ暫くは芽に独占され、密かに焦れったく思っていた。 (俺だってずっと吸いたかった……って何か変態ぽいな) いけない、いけない。 春樹の前では『余裕のある男』でいなくては。 蓮人は興奮を何とか抑えつつ、紳士的に(?)それを味わおうと、口を開いた瞬間。 「ふ、ふえ、ふえ……ワア~ン!ママアー!!!」 ……タイミングを見計らったかのように、芽が凄まじいボリュームで泣き声を上げた。 途端に春樹は表情が切り替わり、「はいはーい!ママはここだぞー!」と言いながら、驚異的な速さで彼の元へと急ぐ。 取り残された蓮人は、ただただ呆然とするしかなかった。 仕方ないとはわかっている。 でも。 (お、俺だって……春樹さんに触れたいのに……もっともっと……構って欲しいのに……!) と虚無感(きょむかん)に襲われたところで、ハッと我に返る。 (何を言ってるんだ。俺はもう父親なんだぞ。芽を一番に考えなきゃ) そう自身に言い聞かせた。 だが募っていく鬱屈(うっくつ)した感情は、簡単には払拭出来なかった。

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