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第60話

「たまには二人でデートでもして来たら?少しの間くらい、私が芽を見ておくから」 その美代子の提案は、蓮人にとって渡りに船だった。 彼女に後光が指しているようにすら思えた程だ。 聡明(そうめい)な人なので、こちらの心情を察してるのかもしれない。 (春樹さんと二人きりなんて、いつぶりだろう) 蓮人はワクワクが止まらなかったが、春樹は渋い顔をした。 「でも……芽、俺がいないとヤバい時があるから……」 「あら、私なら割りと上手くいく時多いでしょう?少しくらい大丈夫よ」 「う~ん……」 なかなか頷かない春樹に、密かにやきもきする。 そんなに自分と二人きりになりたくないのだろうか。 芽の方が大切なのか……。 (って駄目駄目!何考えてるんだ!) またしても考えが変な方向に湾曲(わんきょく)しそうになるのを、何とか振り払う。 すると美代子は、それを知っているみたいに、 「春樹、子供は勿論大切だけど、『夫夫』の時間もちゃんととらないと駄目よ」 そう諭され、春樹は目を見開いてこちらを見た。 ちょっと罰が悪そうなその表情も、可愛くて堪らない。 どんなに(ないがし)ろにされても、愛情は増すばかりなのが、……少しだけ、悔しい。 「そ、だよな……蓮人、久しぶりに行ってくるか!」 「はい!嬉しいです。すぐ帰れるように、近場にしましょう」 「おうっ」 ようやく春樹が乗り気になり、蓮人はホッと胸を撫で下ろした。 そして直ぐに頭の中でデートプランを練り、意気揚々とする。 (春樹さんが観たがってた映画に行って、昔よく行ってた洋食屋に行こう。これくらいが限界だろうけど……) 嬉しい。 やっと春樹さんを独り占め出来る。 などと一人、静かに喜びを噛み締めるのであった。

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