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第62話
それからも春樹は芽に付きっきりで、ゆっくり話す機会もなく、蓮人は悶々 と過ごしていた。
暗澹 たる感情が芽を出し、そのたびに強引に摘み取っていく、を延々繰り返して。
そんな自身を誤魔化す為に、仕事により没頭 するようになった。
育児を春樹に任せっきりにするのは気が引けたが、芽がどうしてもこちらに懐かず、
「ま、そういう時期だろ。俺は全然大丈夫だから、お前は仕事頑張れよ!」
疲れているだろうに、笑顔を絶やさず、むしろ鼓舞 してくれる春樹。
それは蓮人を逆に追い詰めた。
(彼はこんなに素晴らしいのに、俺は……)
何をされても言われても、溜まっていくどす黒い想い。
けれど、誰にも吐露出来なかった。
春樹には勿論、美代子にも剛健にも莉那にも。
当主になってなお、怖いのだと思う。
『あの両親の息子だから、高瀬家の血を引いてない者だから、精神的にも未熟なのだ』と。
血縁を指摘されるのが、何よりも恐ろしかった。
しかしどんなに蓋をした所で、限界は必ずやって来る。
とある夜、春樹は余程疲弊 していたのか、芽が大泣きしても全く起きなかった。
蓮人の方が目覚め、半ば反射的にベビーベッドへと向かう。
(春樹さん、余程疲れてるんだな。ここは俺が頑張らないと)
正直自信はなかったものの、いつまでも甘えてばかりはいられない。
蓮人は怪獣の如く泣き叫ぶ芽を抱き上げ、優しくあやした。
「ほら、パパですよ~ママはぐっすり寝てるから、芽も早く寝ようね」
「ワァァァン!ママ、ママァ~!」
「ママはね、ちょっと疲れてるんだ。寝かしてあげよう?ね?ほらほら、いないばぁ~」
「ママァ~!!!」
お決まりの展開に、落胆するしかなかった。
潤んだ芽の瞳には、自分の姿は写し出されていない。
いつだって求めるのは春樹だけだ。
ママ、ママ、ママ、……。
日中あれだけずっと一緒に居るのに。
愛情を一身に受けているのに。
(俺だって、俺だって……!)
春樹にもっと愛されたい。
いっぱい独り占めしたい。
芽よりもずっとずっと、必要とされ
「ん……何だ、芽起きたのかぁ」
春樹の寝惚けた声が聞こえ、蓮人はハッとした。
そして、慄然 とする。
(俺は今……何を……)
腕の中で号泣し続ける芽を、ぼんやりと眺める。
可愛いと思う。
愛おしいとも思う。
でもそれ以上に。
「よし!選手交代だな。ありがと、蓮人。明日も仕事早いんだろ?ここは大丈夫だから」
蓮人の心情など露知らず、春樹は明るく振る舞う。
そうすればする程、こちらが惨めに感じるとは、想像もしていないのだろう。
もう堪らなかった。
思考回路がもつれて、絡み合って。
無意識の内に、口を開いていた。
「……何で、そんな……優しいんですか」
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