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第65話

「ふふ。凄いでしょ?先生のお友達なのよ」 香苗が得意げに言い、蓮人ははにかみながら、 「こんにちは。俺も昔、ここにいたんだよ」 「えっマジー!?」 「あの伝説は本当だったんだ!」 「何か嬉しい~」 瞳を爛々(らんらん)に輝かせ、こちらを見据える子供達。 その汚れのない眼差しに、心が洗われるようだった。 きっと辛い想いを沢山してきただろうに、こんなに純粋に育っている。 ひとえに香苗から注がれる、無償の愛のおかげだろう。 (良かった、皆いい子達だ) それから和気藹々(わきあいあい)と写真を撮ったり、庭で遊んだり、蓮人はすっかり童心(どうしん)に帰っていた。 日が沈み夕闇が辺りを覆い始めて、ようやく子供達は遊びを止め、夕飯作りに取り掛かった。 ここでは自活出来るよう、年齢問わず家事はするようになっている。 「蓮人兄ちゃん、今夜はカレーだぜ!」 「絶対美味しいから、沢山食べてね~」 子供達の無垢な、満面の笑みが眩しい。 (芽もこんないい子に育ってほしいな、……) と考えて、ハッとする。 ……自分にそんな事を考える権利はあるのか。 春樹を独占するからと、大人気なく嫉妬してた癖に。 ふと思考が元に戻り、肩が重くなる。 すると。 「蓮人くん。夕飯が出来るまでお話しましょう」 「!ええ、勿論」 何かを察したような香苗に促され、施設長の部屋に通された。 そこの壁には子供達の写真がところ狭しと飾られており、彼女の想いが(うかが)える。 「あ、懐かしい」 その中に自らの姿を見つけ、頬が緩んだ。 高瀬家に迎えられ、少し経って挨拶に訪れた時に、記念に撮ったものだ。 美代子と剛健、そしてー今よりも大分幼い、春樹が居た。 まだ表情の固い蓮人の肩を抱き、人懐っこい笑みを見せている。 (可愛い……) この頃からずっと彼が好きで、大好きで。 何年もかけてやっと手に入れ、家庭まで築いたのに、自身のせいで壊れそうになっている。 何て愚かなんだ。 (俺はやっぱり……春樹さんには相応しくなー) そう暗澹(あんたん)たる考えに囚われそうになった時。 「この時から好きだったのね、春樹さんのこと」 不意に虚をつかれ、ギョッとして目を見開いた。

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