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第66話
「は、はい??」
蓮人は情けない、素っ頓狂な声を出してしまった。
思わず赤面するも、当の香苗はふふ、と余裕の笑みを浮かべ、
「直ぐに分かったわ、貴方が春樹さんを好きだって。目がハートになってたもの」
「え、あ、えとっ」
突然の暴露に、冷や汗が止まらない。
子供だったから仕方がないとは言え、そこまで顕著 だったのだろうか。
動揺を隠せない蓮人に、香苗は穏やかな口調で続ける。
「なかなか心を開かなかった貴方が、新しい家に馴染むか心配だったけれど、春樹さんと会って直ぐに安心したの。彼なら飛びきりの愛情を注いでくれるって。その通りだったわ」
「先生……」
そう。
そうだ。
春樹は幼い頃からずっと、惜しみない愛情を注いでくれた。
暗闇でもがいていた自分を、救い出してくれた。
なのに。
「俺……駄目なんです。春樹さんを愛するあまり、息子に嫉妬してしまって……勿論、息子も可愛いんですけど……気持ちを抑えられなくて……」
「……」
「こうなるのも、俺が人間的に未熟だからだと思うんです。きっと高瀬家の血が流れてないから、人としてちゃんとしてな」
「蓮人くん、それは違うわ」
静かに耳を傾けていた香苗が、凛とした声で制した。
その瞳は厳しくも柔らかく、心を落ち着かせてくれる。
「貴方は立派よ。でなければ、高瀬家の当主になれる訳ないじゃない」
「……でも……」
蓮人はギュッと唇を噛み締める。
信頼してる人の言葉も、今は素通りしてしまう。
それを香苗も分かっているらしく、更に畳み掛けるように、
「大丈夫。貴方は高瀬家でもここでも十分愛されてる。きっと子供のことも愛せるわ。それに初めから完璧な親なんて、なかなかなれないものよ。私だってそう。施設の子達とは仲良く出来るのに、実の子とは喧嘩ばっかりなんだから」
「そ、なんですか……?」
意外な事実に、蓮人は眉を顰 めた。
もしかしたらただの慰めかもしれない、と訝 しむが、香苗は苦笑を漏らし、
「恥ずかしながら、本当なの。中学生の娘相手に、毎日四苦八苦してる」
「皆から好かれてる先生が……?」
「まぁ、そんなことはないけれど。けどやっぱり、仕事とプライベートは違うものよ。仕事では上手く出来るのに、プライベートでは苦戦してる。それでもー娘を愛してるの。蓮人くんも、息子ちゃんを愛してるでしょ?」
「!勿論です!」
言下に答えたら、香苗は目を細めた。
聖母の如く、慈愛に満ちた表情だ。
少し春樹に似てる、と密かに思う。
「それで十分。安心しなさい、貴方はもう立派な『父親』よ」
ストン、と。
憑 き物がとれた気がした。
肩の上に乗っていた何かが、確かに消えたのだ。
(そうだ、俺はー)
蓮人は久方ぶりに、心からの笑顔を見せた。
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