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第67話

今宵は輪郭のはっきりとした三日月が、闇夜(やみよ)を照らしている。 月を見るたび、思い出す。 『そういやお前、昔から好きだったよな。うん、確かに蓮人には月が似合う!月っぽい!』 春樹の無邪気な笑顔、明るい声。 ……会いたい。 顔を見て、謝りたい。 勿論、芽にも。 (って一日離れただけなのに。情けないなぁ) 施設内にある客間にてー簡易なベッドを用意してくれたー、一人苦笑する。 昼間の喧騒(けんそう)は鳴りを潜め、同じ場所なのに別世界のように静かだ。 何だか落ち着かず、眠れない。 月は好きだけれど、今は早く朝になって欲しい。 そうすれば直ぐに自宅へと戻り、春樹と芽を抱き締められる。 『駄目なパパでごめんなさい。二人とも心から愛してます。ずっと家族で居させて下さい』と。 本心を伝えられる。 (もしかしたら、拒まれるかもな……いや、でももう逃げない) 蓮人はそう固く決意していた。 拒まれたとしても、許して貰えるまで頭を下げ続けよう。 また春樹が笑ってくれるまで、ずっと。 そして、新たに一から築き上げるのだ。 幼い頃から渇望(かつぼう)していた、温かい家庭を。 「よしっ」 蓮人は自身を鼓舞し、明日に向けて眠りに就いた。

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