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第70話
後日、何と。
デートのやり直しをする運びになった。
今度は蓮人の方が芽を慮り、尻込みするも。
「最近お袋に長時間預けても大丈夫になったし。歩き回るようになったら余計大変になるからさ、行こうぜ!」
愛する者に意気揚々とそう誘われ、断れるはずもない。
春樹も楽しみなのだろう、幼子のように瞳がキラキラ輝いている。
(そんなに喜んでくれてるのか)
そう思うと蓮人も胸が高鳴り、満面の笑みで頷いた。
デート当日。
春樹はせっかくだからと、普段のラフな格好とは違う、愛らしいベレー帽にニットのベスト、スタイルの良さが分かるパンツとおめかししてくれて。
それならばと蓮人も、奮発 して購入したラルフローレンのシャツとパンツを選んだ。
「おお~やっぱり俺の旦那は世界一かっけぇ!」
なんて春樹は無邪気にはしゃいだが、それはこちらの台詞だ。
「俺のお嫁さんの方が、世界一可愛いですよ」
「!ば、バーカ。ほら、行くぞっ」
相変わらずシャイな春樹。
ほんのりと頬が赤くなっており、蓮人は顔が綻ぶが。
周囲の男ども(失礼)の彼への熱い目線に対し、睨みを利かせるのも忘れなかった。
今でも、いや以前にも増して艶っぽくなっているので、一秒足りとも気が抜けないのだ。
そんな心情など露知らぬ春樹は、映画館に着くやいなや、
「あ、これこれ!まだやってて良かった~。なぁなぁ、ポップコーン食わね?あとコーラ!」
なんて上目遣いで言ってきて、心を鷲掴みにされて。
(はぁ……子供かよ……可愛い……俺の嫁、可愛すぎる……)
今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるも、何とか堪えた。
今日はまだ時間がたっぷりある。
映画の後は食事を堪能して、それからーホテルに行く予定だ。
無論お泊まりは出来ないが、高級ホテルの日帰りプランを予約しており、数時間はイチャイチャ、いやゆっくり休める。
(本当に久しぶりだな。春樹さんにあんなことやこんなこと……)
既に脳内が卑猥 な妄想で埋め尽くされそうになり、 蓮人は慌てて首を横に振った。
このままでは映画館の暗闇に乗じて、良からぬことをしてしまいそうだ。
何とか自制しなくては、……ホテルまでは。
「?どした、蓮人」
「いえ。ポップコーン、買いましょう。俺もコーラも欲しいです」
「よし!」
欲に負かされそうな自身を誤魔化しつつ、ポップコーンとコーラを購入し、春樹に腕を引かれて席に着いた。
すぐさま照明が落ち、大きなスクリーンが光を放つ。
王道中の王道なアメリカのアクション映画で、彼がずっと観たがっていた作品だ。
横で「おお~」とか「うおっ」とか、いちいち反応しているのが、実に愛らしい。
(映画よりもこっちの方が楽しいな)
ひたすらその横顔を凝視 していたら、さすがに気付いたらしく、春樹は照れたように頬を膨らまし、
「ちゃんと映画観ろよ」
注意されてしまった。
全く怖くなく、ただただ可愛さしかないが。
(はぁ~まだ我慢、まだ我慢)
蓮人は深呼吸を繰り返して、暴れ出しそうになる自身を抑えた。
そうこうしている内に映画が終わり、「やっぱ凄かったなー!主人公がさ、マジでさ……」と興奮する春樹を引き連れ、前回も訪れた洋食屋へ。
今こそリベンジ!とばかりに、再びホールのショートケーキを、サプライズで用意して貰っている。
それが現れた途端、春樹は想像以上に喜んでくれて。
ピョンピョンと体を弾ませながら、
「マジで嬉しい!ありがとう、蓮人!」
(ああ、……)
まさに恋い焦がれていたデートそのもので、胸がいっぱいになる。
蓮人はこっそり熱くなる目頭を押さえ、直ぐに微笑を浮かべた。
そしてー。
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