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第72話~side 春樹~
「よし、次は正拳突 きいくぞ」
「はいっ!」
威勢 のいい、蓮人と芽の声が聞こえてくる。
春樹はそっと口元を緩めた。
(今日も元気がいいな)
それだけで胸がいっぱいになる。
家族の健康が、一番の願いだから。
今こしらえている朝食も、鮭、卵焼き、味噌汁、納豆御飯と、定番ではあるものの、バランスと彩りを考えてのメニューだ。
特に小学二年生になった芽は、食欲も半端ない為、なかなか気が抜けない。
あまり神経質になるのも良くないので、時にはお惣菜やファーストフードに頼るが、基本は手作りするようにしている。
おかげで料理の腕前が上がり、蓮人も喜んでくれて、その笑顔を見るだけで満たされる。
(……ってまたナチュラルに惚気ちまった)
結婚してもう大分経つのに、未だにラブラブぶりは健在 で。
すっかりおじさんになった自分を、彼は昔と変わらず大切に、宝物のように扱ってくれた。
毎日「好きです」「愛してます」「可愛い」と伝えてくるので、こちらも毎日キュンするのだ。
「おーい、朝食出来たぞ~」
庭で特訓に勤しんでいる二人に、声をかける。
説明が遅れたが、蓮人は空手を嗜 んでいてー実は黒帯の実力者ー、芽にその教えを叩き込んでいる。
芽自身もやる気満々で、
「もしもの時は、僕がママを守るからね!だから空手頑張る!」
と言ってくれ、嫌がる素振 りもなく日々鍛練 していた。
が、中身は至って年相応の男の子なので、
「あっ、ママ~!!」
こちらの姿を認めた途端、タタタッと駆け寄って、ギュッと抱きついてきて。
赤ん坊の時と同じく、まだまだママっ子なのだ。
顔立ちは蓮人にそっくりで、既にスカウトの話がくる程の美形である。
(ああ~もうっ!可愛すぎるっ!!!)
春樹は堪らず抱き締め返し、「芽~♡」と甘ったるい声を出す。
すると、
「春樹さん」
「ん?」
「後で俺にもハグして下さいね」
蓮人が少々拗 ね気味にねだってくるので、思わず吹き出した。
昔みたいに嫉妬を剥き出しにすることはないものの、彼もまだまだ『春樹っ子』。
幼子を彷彿 させる表情が愛らしく、笑いが止まらなくなる。
「よし、蓮人もギューしてやる!」
芽が満足して離れた後、思い切り腕を広げてやると。
蓮人はパアッと目を輝かせ、そこに飛び込んできた。
家族三人、穏やかで幸福な日々を送っている。
これはそんな中巻き起こった、ちょっとした嵐の物語。
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