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第73話
「あれ、芽、弁当忘れてる」
ふとした拍子に、視界に入ってきた愛らしい、こじんまりとしたお弁当箱。
春樹は慌てそれを手に取った。
普段は給食なのだが、時折お弁当を求められる日があり、気合いを入れて作ったのに……。
(あいつ、ちょっとおっちょこちょいなんだよな)
残念ながら、そこは自分に似てしまったらしい。
と自嘲気味の笑みを漏らすと、
「俺が持って行きましょう」
話を聞き付けた蓮人が、気を利かせてくれる。
しかしそれに甘える訳にはいかない。
春樹は敢えて軽快な口調で、
「お前は仕事があるだろ?俺が行くわ」
「いえ、大丈夫です。俺が行きます」
対して蓮人は、頑なにこちらの提案を拒む。
まぁ予想はしていた。
何故か彼は、春樹が一人で外出するのを嫌うのだ。
「こんなおっさん、もう誰も襲わねぇよ
」と何度言っても、合点 がいかない様相で、「いえ、貴方はずっと可愛くて綺麗なんです。自覚して貰わないと困ります」と真顔で返してくる。
有り難いし、嬉しくもあるものの。
「ダーメだ。大切な取材があるって言ってただろ」
「……じゃあ莉那に……」
「莉那だって忙しいんだぞ?大丈夫だって。小学校は近いし、届けたらすぐ帰るから」
「……はい……」
今回ばかりは蓮人も頷くしかなかったようだった。
表情はあからさまにふて腐れているが。
世間では『花の王子様』と持て囃 されている彼が、実はこんなキャラだなんて。
(ファンの子達、びっくりするだろうなぁ)
知ってるのは俺だけだけど。
なんて優越感 に浸りつつ、少し背伸びをして、その鮮やかな唇に唇を宛がい、
「心配してくれてありがとな。……大好き」
「春樹さん……俺も大大大大好きです」
「ははっ」
妙なとこで張り合うのも、幼稚で可笑しい。
(ああ~もう、幸せだぜっ!)
春樹は逞しい胸板に頬を押し付け、温もりを堪能した。
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