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第76話
それからもしばし落胆していたのだが。
夕方に帰ってきた芽は、ケロッといつも通りに戻っていて、
「ただいまー!!」
と全力で抱きついてきた。
その無邪気な姿に、安堵の息が漏れる。
(何だ、やっぱり学校だとちょっと恥ずかしかったんだな)
未だ胸に引っ掛かるものはあるも、そう結論づけることにした。
「おかえり~今日の夕飯は、お前の好きなハンバーグだぞ」
「やったぁ!ママ、大好き」
ギュッと。
小さな手でこちらの服を握り締めながら、
「ママは、僕が守ってあげるからね」
なんて、驚く程凛とした声で言うものだから。
春樹は思わず頬が緩んだ。
「ありがとな。でも俺は芽が居てくれるだけで、十分幸せだぞ」
「だーめ!僕がママを守るの!絶対守るのー!」
何だかよく分からないが、芽は普段以上に躍起 になっている。
小学生になり色々理解出来るようになって、思う所があるのかもしれない。
(こういうとこ、マジで蓮人にそっくりだ)
そう考えると何だか可笑しいし、……嬉しい。
春樹は子猫のような、柔らかい彼の髪の毛を撫で、
「じゃあよろしく、俺の騎士 さん」
と言うと、芽はパアッと瞳を輝かせて破顔した。
可愛さが限界を突破している。
春樹はもう耐えられず、力強く抱き締め返し、
「このこの~♡可愛い奴め~♡」
「あははっ、くすぐったい~!」
「……ただいま帰りました」
「「おわぁっ!!!」」
いつの間にか蓮人が帰宅しており、憮然 とした表情で佇んでいて、春樹と芽は飛び上がった。
存在に気付いてもらえなくて、寂しかったらしい。
「ラブラブですね……楽しそうですね……」
おふざけが入っているとは思うが、やや真剣に拗ねてるようなので、春樹は慌てて蓮人を抱き寄せた。
「な~に拗ねてんだよっ!ほら、お前ともラブラブじゃんっ!」
「芽にはもっとギューとしてました」
「はいはい、ギュー!」
「ふふっ」
精一杯力と愛情を込めたら。
ようやく上機嫌になった蓮人が、笑顔を見せる。
それもまた、可愛さが限界を突破していた。
(旦那も子供も可愛すぎる~!)
なんて密かに悶えていると。
何か思い立ったのか、蓮人がふと顔を上げて、
「そういえば、さっきカンナちゃんのお母さんに会ったんです」
「おお」
カンナちゃんとは芽の同級生だ。
途端に芽がソワソワと落ち着かなくなったのを、春樹は見逃さなかった。
彼女とは仲が良く、別段気まずい関係ではないはずだが……。
頭上にクエッションマークが浮かんだものの、蓮人は構わず続ける。
「芽。前に授業参観の案内、貰ってるだろ?」
「う……う、うん……」
(え、授業参観!?)
何も聞いていない。
芽はしっかりした子で、学校からのプリントは必ず渡してくれるのに。
様子から察するに、故意に隠したに違いない。
蓮人も勘づいているのだろうが、責めることもなく柔和な口調で、
「ちょっとウッカリしたんだな。まだ大丈夫だから。パパとママに見せなさい」
「う……あ、あの……」
もじもじと、目線を宙にさ迷わせつつ、芽は蚊の鳴くような声で言う。
「僕……パパに来て欲しい……」
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