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第79話

「高瀬さん!こちらです」 今まだ授業中なのだろう、静閑(せいかん)な校内にて、聖が一人待っていてくれていた。 思っていたより表情が明るく、少しだけ安堵する。 「どうも、先日はお世話になりました。で、あの、芽が何か……」 「すみません、わざわざ来て頂いて。生徒に聞かれるのもあれですので、こちらで話しましょう」 と案内されたのは、人気のない校舎にある、あまり使われていなさそうな談話室だった。 さすがに春樹でも普段なら躊躇(ちゅうちょ)するのだが、愛息子を引き合いに出され、何の疑問も抱かずに入ってしまう。 途端に聖が後ろ手で、鍵を閉めたのにも気付かずに。 中には簡素な机と椅子しか置かれておらず、かなり殺風景(さっぷうけい)である。 「さ、そちらにどうぞ。お茶用意しますね」 「はぁ」 (ぶっちゃけ早く話聞きたいんだけどな……) ソワソワと焦燥に駆られながらも、聖の厚意(こうい)を無下に出来ず、大人しくお茶が出てくるのを待った。 湯飲みを差し出され、「ありがとうございます」と礼儀として口に含む。 しかし頭の中は、芽のことでいっぱいだった。 春樹はいてもたってもいられず、 「で、先生。お話を聞きたいのですが」 「ああ、芽くんのことですね。いい子にしてますよ。運動も勉強も出来て、皆から好かれて」 「……へ?」 拍子抜けした。 呆然とする春樹に対し、聖はあくまでニコニコと、愛想を振り撒いている。 「え、えっと……何か問題があるんじゃ……」 「そうですね、問題があるとしたら貴方です」 「は?……え……」 (おかしい……!) 急に凄まじい眠気に襲われ、ようやくハッとした。 咄嗟に聖の顔を見ると。 笑顔が邪悪なものに変わっていた。

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