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友一郎 ④(下)
だいいち、大翔 を中心としてつるんでいたグループに友一郎 と彼女は共に属していたというのに、彼女が大翔に想いを寄せているなど、友一郎は気づきもしなかった。きっと誰も気づかなかっただろう。それほどに厳重に秘められた恋を、今頃になって追憶する権利が彼女にはあって、だが仲間として協力すべき友一郎には、何も力になれることがない。そして彼には、長い年月を経て今だから言えると話せること自体が、羨ましいと思える。
かつては大翔と歩いた道をひとりきりで降りていて、高校時代の思い出よりも潜 のお喋りが恋しくなった。未来への夢や希望に満ちた話よりも、今は潜のいきあたりばったりな話を聴きたい。友一郎はそう思った。
やがて海が見えてきた。だが、外洋へと繋がるはずの海は半島や島や防波堤に行く手をはばまれて、小さめの湖 にしか見えない。だから、高校時代の友一郎と大翔は、ここから外の世界に出ることばかり、夢見ていた。
フェリーで島へ戻ると、若手の漁師達が仕事の後片付けをしているところだった。
「ども、お疲れっす」
若者達のリーダーが、会社の先輩にでも挨拶するような調子で友一郎に話しかけてきた。友一郎は会釈 でこたえた。漁師というよりはマリンスポーツのインストラクターといった風情の男の名が「トオルくん」というのを、友一郎は潜から聞かされて初めて知った。
「潜くんから、話しは色々聴かせてもらってます。毎朝の海水浴場の掃除、ありがとうございます。おかげさまで、今年は海開き前の大掃除が楽になるなって、仲間のやつらと話してるんですよ」
これでは、どちらがよそ者だか分からない。友一郎は苦笑してもう一度会釈をし、さっさと家路につこうとした。するとトオルは言った。
「今度、一緒に呑みましょうよ。俺らと、あと伊達 さんとか半島の水族館から出向してきた人達と、皆で。あと潜くんも。きっと楽しいですよ」
やっぱり、ここでは自分こそがよそ者だ。自分で選んだ結果、そうなったのだから仕方ないにしても。友一郎はトオルと別れ、一人で歩き始めた。
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