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友一郎 ④(中)

 ひとつも雨の降らない梅雨が明けようとしていた。東京よりは涼しいとはいえ、急な登り坂を歩いていると汗が吹き出てくる。坂道の両側には、庭にシュロの植えてある家が多い。シュロの木だけが、ここが海辺の街であることを主張しているようだ。海はもっと上の方まで登らないと見えない。そのせいもあって、海辺の街というよりは山あいの街に見える。  友一郎(ゆういちろう)大翔(ひろと)の両親が教えてくれた、大翔の眠る霊園を目指して歩いた。坂の上に共に通った高校があり、それより更に上に霊園はあった。  大翔の墓にはまだ供えたばかりの新鮮な花が活けてあった。彼が亡くなって数ヶ月経つが、いまだに墓前に花を供えに通う誰かがいる。彼が交遊範囲の広い男だったからだろう。  自分はここには来るべきではなかったと、坂を降りながら友一郎は思った。行きに大翔の家を訪ね、仏壇に線香を上げさせてもらったときにはすでにそう思っていた。大翔の両親は老いて疲れ切った様子で、しかもふいに訪ねてきた見ず知らずの男を息子の友人だとは信じられない様子だった。  あの家に、友一郎は一度だけ泊まったことがある。大翔の両親が不在の夜だった。大翔が冷蔵庫から父親の缶ビールをくすねてきて、二人はそれを一本ずつ飲みながら、遅くまで話をした。もう十数年も前のことなのに、友一郎はいまだにその家の間取りを覚えているほどだ。だが今回の訪問では、記憶にない仏間に友一郎は通され、仏壇に線香を上げて手を合わせると、お茶でも飲んでいけという誘いを断り、墓のありかだけを聞いてさっさと家を出た。  お礼のメッセージを送らなければ、と友一郎は思った。友一郎の祖父に大翔の訃報を伝えてくれた同級生に対してだ。彼女は高校時代に大翔に片想いをしていたそうで、それで大翔が東京でどのように暮らし、どうして死を選んだのか、聞きたがった。友一郎には答えられることが何もない。だから彼女と連絡を取るのは気が重いのだ。

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