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潜 ⑤
上陸してきたのは、潜 も見たことがないほど大所帯の群れだった。まず最初に若い女の子たちがやってきた。彼女たちは五本の細い棒を組み合わせて作ったような体つきをしていて、浅瀬まで泳ぎつくと、大きな水しぶきをたてながら、元気いっぱい駆けてきた。次にもう少し小さい女の子たち。そのあとに、もっと小さな子どもや赤ちゃんを連れた大人の女たちが、大きなお尻を振りながら歩く。最後に老人が何人か上陸してきた。
子ども人魚たちは、友一郎が掘った砂のプールを見つけると、そこで遊びはじめた。大人の人魚たちは、最初からこの砂浜は自分たちのものだったと思い込んでいるような我が物顔で砂に腰を下ろすと、髪を手櫛 で梳 ったり、赤ちゃんにお乳を与えたりしはじめた。
全部で二十人以上の群れだが、潜の見たところ男の人魚は老人と幼い子どもの中に何人かいるくらいで、潜のような若い男人魚は一人もいなかった。しかし人魚のポッドとは常にそういうものなので、潜は驚きもしなかったし、残念だとも思わなかった。
ポッドのメンバーはここに潜がいるのが見えないかのように振る舞った。年頃の美しい女の子たちは何人かでかたまって、友一郎 や伊達 くんたちを品定めするようにじっと見つめたり指を差したりした。
「ねーえ、お兄さん!」
と声をかけられて、友一郎はうろたえていた。人魚の女たちを見慣れない人間の男は、みんなそうだ。なぜなら、彼女たちは男の人魚ほど肌の色が濃くなくて、まるで素っ裸の人間の女のように見えるからだ。しかも、みんなとても美しい。ただ、男の人魚と同様に凹凸 の少ないツルッとした肌で、腕や脚が黒っぽいので、人間ではないと分かる。
「皆さんようこそ、はじめまして!」
伊達くんはさっそく、女の子たちと交流をしようと試みている。彼は、彼女たちが連れている赤ちゃんや小さい子たちに発信器を着けたいのだ。
潜のもとに小さな子どもたちの集団が走ってきた。潜のまわりを、棒のまわりを回るみたいにぐるぐる回って、そしてまた海に向かって走っていったが、最後の一人がじぶんの足のひれをじぶんで踏んづけて転んだ。子どもは砂に腹ばいのまま、わっと泣きだした。
「大丈夫?」
潜は子どもを抱き上げて立たせた。子どもは顔を真っ赤にしてわぁわぁ泣き続けている。目のまわりや鼻筋の模様が濃いので、男の子だとわかる。
「こら、なにやってるの!」
ふくよかな体つきの大人の女がゆっくりとした足どりで近づいてきた。子どもは泣きながら両手を前に突きだして、母親の方へかけていった。
「そんなに泣いたら、不細工な顔がもっと不細工になるよ」
母親人魚が男の子を叱る時の決まり文句だ。母親は子どもの背中を押して、群れの中心へと戻っていく。彼女も潜に対しては海中にただようクラゲに対するほどの興味も持ち合わせていないようだ。
潜が無言で母子の後ろ姿を見送っていると、いつの間にか友一郎が側に来ていた。
「仲良くしないのか?」
潜は唇の両端をきゅっと丸めて笑って見せた。
「女の子たちと仲良くなるのは、人間と仲良くなるよりもずっと難しいんだよ」
友一郎は少しだけ目を見開いて、ふむ、と唸 った。
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