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潜 ⑥

 砂浜は女の子人魚だらけ。沖には巡視船がゆっくりと航行中で、伊達(だて)くんは部下を連れて精力的に女の子たちの間を歩きまわり、朝の健康観察をこなしている。  友一郎(ゆういちろう)は今日も姿を見せない。人間の男が人魚たちと仲良くしているのを巡視船に見られるのは良くないと、最後に会ったとき友一郎は言った。  だからって、本当に来なくなるなんて。(かづき)は肌が乾燥してひび割れてくるまで船着き場に腰かけて待っていたが、とうとう肩や脇腹がひりひりして我慢できなくなってきたので、海に戻った。  島の(まわ)りを一回りしてから、潜は切り立った崖に挟まれた、幅のせまい入り江に向かった。いつもは遠目に見るだけで素通りしてきたそこは、入り江の内と外を隔てるようにゴツゴツとした岩の柱がいくつも立っていて、よそ見をしていると頭をぶつけてしまいそうだ。  岩の間を通り抜けると、奥は水の流れが穏やかで、つき当たりにはごく小さな砂浜があった。女の子たちに取られた砂浜と違い、大きな石や流木がごろごろ転がっている。奥行きがないので、満潮時には砂浜全体が水底(みなそこ)に沈んで居場所がなくなるだろう。  潜は海の方を向いて波打ち際に腰かけた。水平線は海面からつき出す岩々が邪魔で見えないし、空は崖に切り取られて狭かった。ずいぶんさびしい場所だ。でも、秘密めいた場所だ。もし友一郎をここまで連れてくることができたなら、潮が引いている短い間だけにしろ、以前よりももっと親密なときを過ごせるだろう。  濡れた砂に潜は寝そべり、ごろごろと転がった。 「会いたいなぁ、友一郎……」  この間、砂の上で抱き合った、その続きがしたい。友一郎の服はびしょ濡れで冷たかったが、体は温かかった。もっと温もりを感じたいと思い、片足を友一郎の腰に回して引き寄せた。そうしたら、友一郎の脚の間に何か硬くて熱いものがあるのが布越しにもわかって、じぶんの脚の間をそこにぴったり合わせると、全身がぶるりと震えて眩暈(めまい)がしそうなほどだった。  もっと強く抱きしめて、鼻筋と鼻筋をこすり合わせてみたかったし、服を脱がせて直に肌を触れ合わせられたら、どんなに良かっただろう。  想像しながら、潜は指を下半身に伸ばし、生殖孔(スリット)に触れた。割れ目にそって指を上下させると、じょじょに肉の(あな)が緩んでくる。そして孔から顔を出した白い性器の先端を指で円を描くようにくるくると撫でつけ、硬くして、体内から引き出していく。性器をいじりながら、もう片方の手の指を口に(くわ)えて肩をすぼめ、友一郎の腕の中にすっぽりくるまれているところを思い描く。ざぶんと腿のあたりまで、波がかかる。  なんだろう、なにをしているんだろう。死ぬほど気持ちいい。 「あ……」  喉の奥がわななき、性器の先端から熱い液体がほとばしった。潜は体を起こして性器をいじっていた手を見た。ぬめっとして白っぽい半透明の液体が、手のひらや水かきにまとわりついていた。彼は海に入り、手のひらに着いたぬめりを洗い落として、乾燥してしまった体を水によく浸した。  友一郎に出会ってから、心も体もほんとうに変だ、と彼は考えた。これまで、たった一人の友達とこんなにも仲良くしたい、ふれ合いたいと思ったことはなかったし、友達を思って生殖孔(スリット)(うず)いたこともなかった。 「会いたいなぁ、友一郎……」  ふと、潜はいいことを思いついて、秘密の入り江から出ると、島の港を目指した。  潜が港の岸壁に上がると、コンクリートの上に広げられた網を(とおる)くんが(つくろ)っているところだった。 「どうしたんだい潜くん。こんな時間に、珍しいじゃない」  徹くんはいつものように、親切そうな笑顔で言った。潜は顔の前で手を合わせて頭を下げた。 「徹くん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」 「なになに?」 「まず、何か書くものを貸してくれる? 友一郎に手紙を書きたいんだ」

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