30 / 53
潜 ⑫
そうして遊んでいるうちに潮が引き、砂浜が少し広くなった。潜 と友一郎 は波打ち際に寝転がった。友一郎の、日に焼けて少し赤くなってきた肌に、潜は自分の肌をこすりつけた。人魚とは違って柔らかい触り心地。嬉しくて勝手にキュゥ、クィ、ピュゥ! と鼻声が出てしまう。
友一郎は潜の首の下に腕を敷き、手で潜の頬を撫でた。
「その声、どこから出るんだ」
と言って頬笑み、潜の唇を指で軽く弾いた。
「わかんない。鼻の奥かな」
友一郎が体を潜の方に傾けた。お互いの鼻先がくっつきそうなほどの距離。友一郎の指先はまだ潜の唇を触っている。軽く爪弾き、左右になぞり、そして先っぽを唇の間に押し込む。
潜は友一郎をじっと見つめた。こんなに近いのに、頬をすりすりしたい気持ちには不思議とならなくて、吸い込まれるように、濃い茶色の目を見てしまう。そんな潜の顎に、友一郎は手を添えて、顔を近づける。潜は思わずぎゅっと目を閉じた。
ぴたっ。と、頬と頬がくっついた。
「友達?」
友一郎が耳もとにささやいたとき、潜の背筋はびりっと痺れ、四肢からは力が抜け、頬がぼわっと火照 った。
「うん、友達」
「こう触れ合うのが?」
友一郎の手がやや乱暴に潜の背中を撫で回した。潜はふくらはぎと足の指を強張 らせた。友一郎の手はしだいに背中から腰へと下がっていく。潜の首筋に友一郎は顔をうずめ、顎を肩にめり込ませている。耳もとに彼の吐息がかかるたびに、潜の首の骨や背骨はじんじんと痺れ、生殖孔 がうずくというより炎症でも起こしたみたいに熱くなった。
ゆっさゆっさと体がゆすぶられる。友一郎と触れ合うのは楽しいはずなのに、なぜだか次第に不安になってくる。両手で荒々しく背中をさすられるのが、尻を掴まれ揉みしだかれ、太股の内側に手をすべり込まされるのも……。潜の口は言葉を忘れ、鼻の奥もプイとも鳴らない。
臍の下にぬるりとした感触をおぼえ、潜は慌てて生殖孔を手で叩くように抑えた。先日、伊達 くんが潜のスリットから性器が出ているのを見て、気まずそうに顔をそむけたときのことが脳裡に浮かんだ。
見られたら、友一郎にも嫌がられるだろうか? そう思って潜はスリットに性器を押し戻そうとした。その手の甲が、友一郎の下腹と潜の下腹の間に挟まった。服ごしに手の甲にあたる友一郎の体は硬くて熱い。以前はそこに直接スリットを押し当ててこすり合いたいと思った潜だったが、今は必死にそこから自分の性器を守ろうとしている。友一郎に気持ち悪いと思われたくないという一心だ。
友一郎は強行突破せんとばかりに強く腰を数回押し付けてきたが、ふと潜を締めつける手をゆるめた。そして彼はふーっと長い息を吐いて、砂の上に大の字になった。
「暑い」
彼は呟いて体を起こした。潜はスリットを抑えるじぶんの手を太股に挟んで隠し、ゆっくりとした動作で起きた。
友一郎が潜の肩に手を置いて、また顔を近づけてきた。覗きこみ、じっと見つめてくる。潜はどうしたらいいのかわからなかった。すると友一郎は目を伏せてふっと笑い、潜の肩をぽんぽん叩いて、乾きはじめていた髪をもみくちゃにしてから立ち上がった。
「暑いな。お前も水に入った方がいいんじゃないか?」
と、友一郎は砂浜の奥に乗り上げた舟のコックピットから黒い上着を取り上げた。普通、人間は暑いと言ったら服を一枚脱ぐものだが、友一郎の場合は逆に一枚着る。そしてつばの広い帽子をかぶる。
潜はすごすごと海に入った。じっさい、頬がカサカサになっているし、肩が日に焼けてひりひりしはじめていた。ざぶんと頭から水にもぐると、フグの赤ちゃんたちがあわてふためいて逃げていった。
コッコッコッと声がする。潜は水面から顔を上げた。ほんの少しそよ風が吹いているが、さっきの声はしなかった。また水にもぐると、やはりコッコッコッと、誰かが呼んでいる。
ともだちにシェアしよう!