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そもそも結斗がピアノを欲しがった理由は、純と一緒に遊びたかったからだ。
純はサッカーもドッヂボールもしない子だったし、結斗が好きなゲームにも興味がなかった。共通の話題が音楽だけだったので音楽が遊びになった。
小学校の音楽室の鍵は壊れていて、勝手に忍び込んで放課後自由に遊べた。もし先生に見つかったとしても純が一緒だと怒られなかったし「ピアノの練習」と言えば二人とも偉いわねと褒めてくれた。
結斗はピアノが弾けないから歌ってタンバリンとカスタネットを叩いていた。別に先生に褒められる要素は全然なかったと思う。
結斗が歌えば純は伴奏してくれたし、その時間が楽しかった。だから音楽を何も知らないのに歌うのが大好きだった。
結斗は単純だったから楽器を弾く資格は無くても歌なら良いんじゃないかと考えるようになった。
歌を習えば、純ともっと遊べるし、絶対に楽しい気がした。思ったら即行動していた。
母親もピアノを買うことは了承しなかったけれど、歌を習うことは渋々認めてくれた。
たまたま市の合唱団の子供の部で募集があり、入団テストにまぐれで受かった結斗は小学二年生から「音楽」を始めた。
テストでは「元気でよろしい」と先生に褒められて天狗になってた結斗も、習い続けるにつれて、周りの様子がおかしいことがわかった。
今ならわかるが、おかしかったのは結斗の方だった。
世間知らず。
本当の音楽は、自由に歌って奏でて楽しいだけじゃないって気づき始めた。少しの狂いも許されない。正しい音程、正しいリズム。それを機械のように練習を重ね楽譜通り再現する。
元々、男の子で歌を習っている子が少なかった上に、数少ない同じ年の男の子は、ピアノやバイオリンをやっていて、結斗は周りと話が合わずに場違いだった。
同じようにピアノをやっていても、純は結斗のレベルに合わせて話をしてくれたけれど、そこにいる子たちは、当たり前にわかることが分からないと、結斗を笑ってバカにした。
何を言われたところで、歌うことが好きだった。だからそこで友達が出来なくても気にしていなかった。
徐々に積み重なっていく違和感を無視して、結斗は習い事を続けていた。
習い事で友達が出来なくても、結斗は純と共通の話題が増えることがすごく嬉しかった。
ただ、結果として話題は増えたのに、楽しかった音楽室での二人だけの時間は、純のピアノ教室の宿題が増えるにつれ残念ながら無くなってしまった。
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