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 久しぶりに食卓で母子で顔を付き合わせていた。風呂上がりの母はビールを片手におでんを美味しそうに食べていた。喜んで感謝されると次も頑張ろうと思えるし、料理に関しては段々と結斗の趣味になっていた。もしかして好きになるように両親に仕向けられてたのだろうか。 「なーんで、今日は、ぶすっとした顔してんの?」  お互い対面キッチンの隣にあるダイニングテーブルに向き合って座った。近くにあるテレビからは明日の天気が流れている。天気予報士は毎日毎日、明日は寒いって言う。知っているって思った。 「元々こういう顔なのー。アンタが産んだんだろ、よく似てるよ」 「そうね、父さんにそっくり」  アンタにそっくりなんだよって、心のなかで毒づいた。一重で猫目なとこがそっくりだ。 「そうそう、今年のクリスマスさ。由美子ちゃんたちと遊ぶことにしたから」 「は? なんで、つか由美子さん帰ってくるの?」  それなら純と家族で過ごすんじゃないのかと思った。  別にクリスチャンでもないから、教会に行ったりはしないだろうけど。 「行くのよ私が。あ、父さんも一緒。ニューヨークまで」 「歳考えろよババア」 「あらぁ、海外旅行に年なんて関係ないでしょう? たまに父さんと顔合わせないと、家族って忘れそうだし」 「はぁ」 「父さんが出張だって言うからついでよ、ついで」  昔から自分の親は好き勝手に生きている。 「普通さぁ、息子一人置いて、海外遊びに行くか?」 「アンタだって、大学で遊んでるじゃない。私たちだって遊びたいし」 「勉強もバイトもしてる!」 「そう偉いねぇ? でもさ大学なんて遊び方を覚える場所でしょう。一年の間に真面目に単位とって二年は自分探しという大義名分で朝から晩まで遊んで」 「俺は違う」  酒が回ってきたのか母は普段より饒舌だ。 「三年になったら酒を覚えて四年で絶望する。ちなみにあんたの父さんとあったのは、三年の時。ほんと酒の力って恐ろしいわ、あんたも気をつけなさい、私の血をひいているんだし」  親の出会いとか聞きたくないと思った。 「別に旅行は自分たちが稼いだ金だし、好きにすればいいけど」 「ありがとう、お土産買ってくるね」  「いらねぇよ」 「えーなになに暗い顔。お母さんいなくて寂しい? 純くんに遊んでもらいなよー」  完全に酔っ払いだ。  別に酒癖は悪くないし悪いお酒じゃないから適当にあしらって放っておくことにした。 「寂しくなんか」  言いかけて嫌なことに気づく。  母親はどうでも良くても純がいないと寂しいと感じる自分に。  そして、自分の親は、酔ってても息子のことをよく見ているし、何も見てないのに結斗のことをちゃんと知っている。  それが親というものなんだろうか。純と離れるのが寂しいなんて気付きたくなかった。  純が今年も結斗と当たり前のように一緒にいてくれる保障なんてどこにもない。 「純だってクリスマスは忙しいだろ。俺だってバイトあるし忙しい」 「ふぅん。やっぱり寂しいんじゃない。ほんと、四六時中一緒にいたからねぇ君らは、兄弟みたいに。で、大学行ったら一気に世界が広くなるのよねーわかるわかる」 「何が!」 「母さんも高校の時の友達って今はぜーんぜん会ってないもん」  そんなふうに母親に不安を煽られた。 「べ、別に純は俺がいなくても、好きにやってるし、俺だって」 「素直にクリスマス一人が寂しいから今年も一緒にいてくださいって純くんにお願いすればいいじゃない、きっと喜ぶよ?」 「誰が言うかよ!」 「去年も二人でいたくせに」 「きょ、去年は純の親も帰ってきたし、アンタらも純の家にいたじゃん」  去年は純の家で二家族でクリスマスパーティーをした。夕飯を食べたら地下の純の部屋で映画を観ていたので、母親が言う通り二人でいたというのは間違いではない。 「そうだっけ」 「そう!」 「ま、純くんもあんたが嫌だったら嫌っていうし、アンタも純くんが嫌ならいやって言うでしょう。そんな悩まなくても、そんだけのことじゃないの。ほんとアンタ昔から図太いくせに変に繊細なんだから、誰に似たのよ。父さんかしら?」  同じことをさっき、純に言われたところだった。 「そうか」 「そうそう。純くんに彼女が出来たらアンタ泣くんだろうなー。まぁ、純くんもアンタに彼女が出来たら泣くだろうけど」 「あいつが泣くかよ」  純が自分のことで泣くところは想像が出来なかった。そういまいちピンとこない顔をしていたら、母は呆れたように息を吐く。 「ほぉら、アンタそういうところが無神経なのよ」 「無神経ってなんだよ」 「同じだけ一緒にいたんだから思考回路も同じよ。なんで分からないかなぁ君は由美子ちゃんも言ってたけど、私たちからみたら、あんたら似た者同士よ」 「似てねーよ」 「似てるって。顔は純くんの方がいいけど」 「うるせーな」  勝手に似た者同士で纏められたけれど、やっぱり純に自分と同じところなんてない。けれど母親の言葉は不思議で、じゃあ、それならまだ一緒にいてもいいかと思えた。  欲しくもなかったのに、母親から安心を与えられた気がして少し腹がたった。  いつまで経っても子供扱いだ。  少し冷めたおでんの大根にかぶりつく。  純は、もう夕飯は食べただろうか。

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