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 ++  夕方まで学内のカフェでバイト。その帰り道に同じサークル仲間に出会った流れでカラオケに行くことになった。  純との約束は覚えていたけど、すぐに純の家へ行く気にはなれなかった。  昼間、瀬川と純が話していた場面が、ずっと頭から離れない。頭の中がモヤモヤでいっぱいで今すぐ歌って発散したかった。  大学の隣駅にある繁華街のカラオケには週一くらいで行っていた。一人カラオケもするし友達とも行く。純とは行かない。  動画配信者になっていた純を見てから「純が知らない自分だけの何か」が欲しくなった。けど一生懸命探したところで自分にあったのは「友達と行くカラオケ」くらいだった。  行きつけのカラオケ店は学生割引で飲食物の持ち込みも可だ。高校の時と違うのは、お酒が飲めるところ。二十歳になってから結斗は、すぐに酒を覚えた。  今さらだけど先日母親が言った通りの大学生活になっていることに気づく。  母親と同じように四年生になって後悔する、かもしれない。  薄暗い小さなカラオケルームへ連れ立って入る。防音室なのに隣の歌声が絶えず聞こえている。隣は今月ランキング一位の女性シンガーのラブソングを熱唱していた。  エル字型のソファーに四人バラバラと座った。結斗は一番端に座って、近くにあったタッチパネルのリモコンを手に取った。 「いつも思うけど桃谷さぁ」 「なに?」 「……本当、すげぇコントローラー使いこなしてるよな設定細けぇ」 「え、そうか?」 「曲ごとにキー上げ下げして、スピードも変えるし、桃谷が歌うと全く別の曲になる」 「だって、歌いにくくない?」 「えー、そうか? 音変えて歌う方が難しいけど」  原曲のままでも歌えるけど、どうせなら歌いやすい方がいい。歌手の声マネがしたいわけじゃないし、無理のない音域できれいに歌う方が聴いていて周りも心地いいと思う。  ただのカラオケ。相手なんて意識する必要はないのに変なところでこだわっていた。  昔、音楽をやっていた。多分、結斗なりに音楽と真摯に向き合っていた。先生からすれば、全然出来ていなかったと思う。古典的、型通りを徹底的に教え込まれた。それは結斗にとって苦痛だった。 「きっと慣れ、かな」 「それ、どんな慣れだよ」  いっぱい練習したから覚えている。体が、頭が。  そんな練習は、つまらないし自由がない。押し付けのように感じていた。  けれど、結斗は大きくなっても相手を意識した歌い方は忘れていなかった。少しの綻びが聞く人の違和感になる。楽譜通り正しい音で長さで歌う。  基礎基本の上に自由な表現があるって、今は少しだけ分かる。先生や、あの時の習い事で結斗のことを馬鹿にしていた子たちも基礎基本を理解していた。だからこそ結斗の自由奔放な歌い方が気になって仕方なかったんだろう。 「あ、桃谷『XXXX』のアレンジ歌うの? 今日も録っていい? 動画作りたい」 「いいけど。瀬川、これ好きだよな」 「だって、すげーかっこいいじゃん。今度編集した動画、桃谷も聴いてよ」 「うん」  そう答えながらマイクを握った。  動画と言われて、また純のことを思い出している。  胸がチクりと痛んだ。  何をしていても、どこにいても、いつも絶対に頭のどこかで純のことを考えている。  知っているコードや定番の和音進行が聴こえると、過去に純が鳴らしたピアノの音を思い出す。 (病気かな、多分、依存症。純がいないと生きていけない病気とか)

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