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 外の世界には純のピアノを好きだと言っている人が大勢いる。  ――結斗じゃない、誰か。  それが、純の欲しかったものだとしたら。  自分がいない方が、純のためだと思う。  このままだと、純をダメにしてしまいそうで、ずっと怖かった。今の幸せが怖い。  純の音楽を自分だけのものにしたくない。自分だけのものにしたい。  結斗は相反する思いの間で板挟みだった。  未来のことを考えると不安でたまらなくなる。 (じゃあ、俺も、純と同じことをしたら?)  ――隣で歌ってくれたら、もっと楽しい。  純が言っていた言葉を思い出す。  どんなに長いあいだ近くにいても、純と何一つ同じじゃないと思っていた。  けれど、並んでいた。  同じサイトの中で。自分と純が。  動画サイトのランキング一覧。純のそばに自分の動画が並んでいるのを見て、急に心が揺れた。  純と同じことをすれば、まだそばにいられるんじゃないか。もっと、純の気持ちがわかるんじゃないか。  純の本当を知るのが怖い。  けれど踏み込んで、もっと純のことが知りたかった。  純と一緒に音楽ができれば、この先、何か変わるのだろうか?  結斗が音楽をしたいのは、この先も純のそばだけだ。間違っているかもしれないけれど、自分の歌声を届けたいのは、今も昔も純に対してだけ。  それだけが、結斗の真実だった。  歌うことが好きだった。  今日までずっと消えなかった、たったひとつの思い。  その気持ちを失わずにいられたのは、音楽を嫌いになりそうになったクリスマスのあの日、そばに純がいたからだ。 「――なぁ、瀬川」 「ん?」 「動画の活動の件ちょっと、考えてみる」 「おぉ! 前向きになった! 駄目元だったのに、なんか心境の変化?」 「とりあえず、その前に、やることある。そのあと返事する」  ――純と話をする。 「ふーん。なんかよくわからないけど、決まったら、いつでも言えよ」 「ありがと」 「峰に連絡したら部室の機材とかも使わせてくれると思うし」  結斗は、怖くてずっと純に聞けていないことがある。  ――本当は、結斗のことを恨んでいるんじゃないか。  あの時ピアノをやめなければ良かった。そう思っているんじゃないか。  そのことを純に聞けない限り、ずっとこのもやもやした後ろめたい気持ちは消えない気がした。昨日の夜、純が決めた覚悟は何かわからない。  結斗にとっての覚悟は、純の答えを聞くこと。  長い付き合いだから、純の顔を見えれば、嘘を言ってるかどうかなんて分かる。  だから、聞けないでいた。  丁度、昼食を食べ終わったタイミングで純にスマホで呼び出された。

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