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「ずっと一緒にいんのに秘密なんか作んなよ。俺なんか悪いことしたかって思うじゃん」 「それもごめん。俺も結斗に同じことされて分かったよ」 「そうだよ」 「動画配信も最初は、三森さんの仕事に付いて行ったとき撮って貰ったのがきっかけで、まぁ、今は色んなピアノ弾けるのが楽しいからやってるけど、勉強になるし」  ちゃんと話せば分かる簡単なこと。じゃあ最初からそう言えよって思う。けど思い返してみれば、昔から自分に良い所しか見せないのが純だった。  ピアノが上手いのだって、結斗にその練習過程を見せていなかっただけで、きっと泣きながら必死にやっていた。一朝一夕で、あのキラキラした音を魔法のように手に入れた天才なんかじゃない。  ただ結斗のことが大好きなだけの、ええかっこしいだ。  分かっていたのに、急に純の本当の姿が見えなくなった気がして寂しかった。 「んな小細工しなくたって、純がすごいのなんて、俺は昔から知ってるっつーの」  何年一緒にいるんだよって怒ったら、幸せそうにへらりと笑うから、また怒った。  すましてばかりの綺麗な顔しか知らない純の友達に、今のこの馬鹿っぽい、やばい顔をみせてやりたいと思った。  絶対に見せてやらないけど。 「ねぇ結斗、キスしていい?」 「ッ……まだ、だめ」 「なんで? まだ幼馴染から恋人になってくれないの?」  結斗だって覚悟は出来ている。気持ちが同じなら仕方ないって。けれど、純のご両親のことを思うと今更ながら申し訳ない気持ちもある。留守を任されているのに、口に出して言えないようなことばっかりやっている。キスとかキスとか、それ以上とか。 「ゆい、そんなアレコレ心配しなくても、今日お泊まりするの、亜希さんとうちの親に了解貰ってるよ?」  そう甘えるように可愛く首を傾げた、純のほっぺたをぐいとつまんだ。 「おい、まて、今なんて?」 「だから、亜希さんに「クリスマスに結斗と泊まりで旅行したいんですが行っても良いですか」って、一ヶ月くらい前かな」  さっと血の気が引いた。一体いつから、純は、自分とこうなるつもりだったんだろう。 「……ババア、なんて言ってた」 「お前がいいって言ったら、どうぞって」  内心戦々恐々としていた。純の回答内容によっては、もう二度と家に帰りたくないかもしれない。 「お前、俺の親に何言ってくれてんの、怖いんだけど」 「どこから話せばいいかな」  聞かない方がもっと怖い気がした。 「全部」 「じゃあ、お前が、高校受験落ちた日からだけど」 「え、そんなに前」 「うん。あの日、うちに亜希さん来てたんだけど。俺、母さんたちに第一志望蹴って結斗と同じ高校行きたいって言ったんだよね。そしたら二人にすごい剣幕で怒られて」  由美子さんが怒るところがあまり想像できないし、人ん家の息子を問答無用で怒鳴る自分の母親もどうかと思う。 「……いや、あっさり第一志望捨てようとするお前もどうかと思うけど」 「それで、いつまでも一緒にいられるわけじゃないでしょうって言われて」 「それは、そうだ」  自分もずっとそれで悩んでいた。 「で、俺は、この先も結斗とずっと一緒にいるつもりだったから「ずっと一緒にいたいから結斗をください」って亜希さんに言った」 「何回でも言うけど、お前なに言ってんの」  想像していたより百歩先をいっていた。 「そのあと亜希さんに殴られて、うちの子はモノじゃないんだけどって」 「まぁ、そうだけど、うちのババアの怒るポイントもなんかずれてるな」 「で、結局、俺が譲らないからって、父さんたちも含めて家族会議した結果。高校の間は結斗と離れて、それでも俺の気持ちが変わらなければってことで許してもらった」  高校の合格祝い。ただのいつもの両家族の食事会。あの日、自分の家で影の薄い父親が純の家にいたことを不審に思っていなかった。  高校の合格祝いだし、そんなもんかって思った。  自分が夜、純の家に行くまでの間そんなやりとりがあったなんて想像していなかった。何から突っ込めばいいのか分からない。 「なぁ、ちょっと、待て」 「ん?」 「純の気持ちが変わらない云々はいいにしても、俺の気持ちは?」 「亜希さんは、うちの結斗は、純くんいないと駄目だから仕方ないけどって」 「……じゃあ由美子さんは」 「確かに、ゆいくんは、うちの子大好きだから仕方ないかって」  ただの冗談かもしれないが、純がいないと駄目になるのは本当なので、少しも反論出来ない。せっかく親たちが作った純との冷却期間も関係なしに、あいも変わらず純に会いに行って四六時中ベタベタベタベタしていたのだから。  純なしでいられないなのは、分かりきったことだった。 「それで、お前は、なんて言ったの」 「もちろん。俺も結斗が好きだし、いないと駄目になるのは同じだからって」  何でも出来て完璧。それは結斗の前だけ。全然、駄目人間だった。 「……本当だよ、お前、全然駄目じゃん」 「ホントにね。で、そろそろ、恋人になってくれる?」 「じゃあ、仕方ないから、なってやる」 「やっぱり王様じゃん」 「悪いか」 「ううん。悪くないよ」  そういって笑いながら、幼馴染で親友じゃ出来ないキスをした。

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