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XI

「脱げ」  アルベルトの胸に指を突きつけ、吐き捨てる。  一瞬唖然としたアルベルトは、微かに怯えたように後退する。 「……何?」 「ヤるんだよ、今、ここで。さっさと下脱げって」 「な……何を、馬鹿な。場所を弁えろ。イルゼも戻ってくるかもしれないのだぞ」 「知るか、オレが今ヤるって言ってんだよ、どうするんだ?」  隙間から差し込む日光が、じわじわと赤く染まる顔を照らす。いくら戸惑う素振りを見せても、身体は従順だ。  腰紐に手をかけ、ゆっくりと膝へ下ろしながら視線を伏せる。 「……できれば、身体を洗ってからが良いのだが……汗や獣の血のにおいが染みついているから」  下肢がまっさらになるのを確認し、ヨハンはアルベルトの襟首を掴むと自らの股間へ導いた。まだ熱の通わないそこへ頬を押しつけ、仄かに湿り気のある黒髪を指で混ぜた。 「貴族さまは知らないか? ちょっとくらい泥臭えほうが興奮するぜ。それにニオイなんかすぐ混じっちまうんだから構うことねえさ」  寛げた穿き物の合間に、アルベルトが顔を寄せる。いつものように口づけてから、舌で掬うようにして膨らみを咥内へ導いていく。  ずる、ずず、と音を立てながら頬肉で扱かれる。いつもより少し動きが忙しないのは、場所が場所だけに焦りに駆り立てられているのか、それとも興奮からか。夢中で頭を前後させる彼の髪を指に遊ばせ、ヨハンは喉を鳴らした。  理性などあってないようなものだ。拒む素振りは一瞬で、すぐにこうして膝を折ってしまうのだから気味がいい。 「最初は嫌々だったのに、上手くなったもんだなぁ」  拙かった口淫が、またたく間にヨハンの太さを余すことなく銜えることができるようになった。満足げに呟くと、濡れた唇に銀糸を滴らせ、アルベルトの視線が上向く。誰のせいだと言いたげな視線に応えるように、ヨハンは軽く腰を揺する。  苦しさに喉を痙攣させても、口を離すことはなく奉仕は続けられた。 「んぅ……んううっ……っぷは、……は」  充分な硬度まで達したと判断すると、アルベルトは頭を上げ、己の唾液にまみれたそれに頬ずりをする。何を求められているのか、わからない筈はないが、先程まで勇猛に獣を狩っていた主人のあまりの浅ましさに興奮よりも嘲笑がこみ上げる。 「準備できたか?」  アルベルトが自らの後孔から指を引き抜く。その拍子にぱたぱたと垂れた雫が土を濡らした。いよいよ、というところでアルベルトは僅かに身を強張らせ、迷う表情を見せた。 「本当にするのか……?」 「はあ? ……ああ、別にオレはここでやめたっていいけどよ。そっちが困るんじゃなければな」 「…………」  火がついたとはいえ、ヨハンのほうは手早く抜いてしまえば収めることは容易い。  逡巡する様子を見せながら、もじもじと下半身を擦り合わせるアルベルトの前で、首を長くして待つ陰茎を手で軽く扱く。視線が向いているのがありありとわかる。 「今日は前からやってやるか。そこの壁に背中つけて、脚上げてな」  彼はヨハンが顎で示した方向へ向かい、言われたとおりに片脚を手で支える。晒された後孔へヨハンは躊躇いなく先端をめり込ませていった。 「~~~ッ♡♡ ヨハ、あ、この体勢っ……当た、って……!」  崩れ落ちそうになるアルベルトの腰を掴み、抜き差しをする。悲鳴じみた喘ぎ声と共に首にしがみつかれた。無理な体勢のせいか普段と感覚が違うが、ヨハンにとってはさして気に留めることでもなかった。  内壁を滑る亀頭が硬いしこりに辿り着くと、粘膜の痙攣が酷くなった。反応目当てにそこを重点的に擦りあげ、小刻みに揺らす。アルベルトは引きつった呼吸を漏らしながら、ぶるっと腰骨を震わせた。 「んはああぁ……ッあ、はうぅ……あ♡ あああッ♡」 「……ッ」  呆気なく絶頂を迎えた後の膣内は活発に蠕動し射精を促すように陰茎を締めつける。根元から喰い千切ろうとしているのかと錯覚するほどの内圧に、ヨハンすら引きずられそうになる。 「おい……イクのがいつも早すぎんだよ」  しかも、今日は特にアルベルトの性感が高ぶっている気がする。  ヨハンの手のひらが乾いた音を立ててアルベルトのこめかみを打つ。しかしアルベルトは呆けた表情のまま、下肢をもどかしげに捩った。 「すまな……い、か、狩りや鍛練で、身体を動かした後は、我慢がきかなくて……普段はひとりで、処理しているから……」 「へえ、一人でね……じゃあいつもみたいに一人でしてみろよ」 「えっ……うあっ」  中から無理やりに引き抜く。身体を離すと、アルベルトがひどく狼狽えてヨハンに抱き縋るので、苛つきと共にその手を叩き落とした。 「う……嘘だろ、ヨハン……意地悪しないでくれ」 「オレはあんたの奴隷じゃねえって何度言やわかるんだ? 捌け口になるつもりはねえんだからよ。あーあー、白けちまった」 「違う、そんなつもりじゃ……! 頼む、行くな、ヨハン……ッ」  必死に引き留めるアルベルトへ、無機質な視線を向ける。取り乱す様が可笑しくて、これ以上に困らせて泣かせてやりたいという衝動が胸の内に膨らんだ。  ヨハンとしては、ここで本当にやめても構わなかった。だが物足りない気もする。もう少し楽しませてほしい。 「そうだな……じゃあ、女みてえに乳首だけでイクところ見せてくれたら、挿れてやる」  薄い上着に浮いた尖りが目につき、そんな提案をした。気まぐれに過ぎなかったが、アルベルトははっとして自分の胸に視線を落とす。  流石に抵抗があるのか。ひたりと胸元に手をあてがい、何とも言い難い表情がヨハンを仰ぐ。 「……ここは、そんなに弄ったことがないから、上手くやれるかわからない……」  意外な返答だ。人に乗っかったり自慰に耽ったりと性に奔放な割に、定番の性感帯である部分を弄ったことがないとは。  いくら女役に慣れようが、あくまで男の肉体だ。触る習慣がないのなら、快感を拾えるかどうか怪しい。尻込みする理由もわかる。  だがそんなことは関係がない。 「『やれるか』なんて訊いてねえ、続きが欲しいんだろ」 「……」  ようやく観念したらしい。辿々しい手つきで上着の合わせ目を開くと、骨ばった関節が胸の尖りを掠め、先端をきゅっと摘む。深く息を吸っては吐きを繰り返し、先端を集中して弄るものの、達せられるほどの快感には遠く及ばないようだった。  とはいえ命令に従い一人虚しく胸を慰める姿は中々滑稽で、欠伸が出るほど退屈だとしても気晴らし程度にはなった。 「はははっ、ちっせぇ乳首必死で弄ってやがる。気持ちいいか?」 「……っ、……っい、気持ちいい……」 「へえ、男でも感じるって本当なんだな。頑張れ頑張れ、急がねえとイルゼも戻ってきちまうぜ」  唇を噛み恨めしい表情でヨハンに視線を送っていたアルベルトも、その一言に焦燥を浮かべ指の動きを強める。時折爪を立て乱暴に引っ掻きながら、強い刺激を与えてみるが、やがて吐息に嗚咽が混じり始める。  薄い皮膚が赤くなるほど捏ねてみても、射精どころかそれ以上の快感も拾うことはなく、しばらく同じことを続けていたアルベルトは耐えかねたように下肢に手を伸ばした。それをヨハンは許す筈がなく、彼の手を掴む。 「下触ったら意味がねえだろ」 「無理なんだ、胸だけでは……! 許してくれ……ヨハン、たのむ……」 「ケツでイケんだからできるって。しょうがねえなぁ、手伝ってやるから」  ヨハンは刺激を与えられ続け張った乳首を摘み、力任せに捻る。強い刺激だけでは不十分だと思い、脇のほうへ手のひらを滑らせると、不意にびくっとアルベルトが身を震わせた。  女性にある膨らみも柔らかさもない、しっかりとした筋肉の感触がなんとも言えないが、構わず平たい胸を揉みしだく。すると、次第にアルベルトの呼吸が上擦っていく。 「っは……ん、ふあ♡」  自ら触っていたときとは様子が違う。とろんと瞼を伏せ、甘い声が漏れる。  強張りを解すように指を押し込み、赤く尖った先をそっと撫でると、アルベルトは微かに首を振った。 「あうっ……ヨハン、あン、駄目だ、だめ……気持ちよくなって、しまう」  相手が男であることを除けば、自分の手で感じ入る様を見るのは悪くない。  おもむろにアルベルトの首筋に顔を寄せ、息を吸う。いつもは鼻を塞ぎたくなるほどきつい匂いがつんざくが、香る筈の気取った香水はすっかり落ち、汗と血と体臭の混じった匂いが鼻腔を抜けた。  悪くない。否、大分ましだ。作られた匂いよりは余程。 「ああ……い、いくっ、ちくびイクぅ♡」  唇を這わせた喉が仰け反り、アルベルトの屹立が白濁を吐き出した。息を整える間もなくヨハンは彼の脚を持ち上げ、お預けを食らっていた自身をアルベルトの中へ一息に押し込んだ。 「ひっ……!! ああァっ、急、にぃっ……♡♡」  熱い。その上、きつい。達したばかりで特に敏感な内側を、力強く反り返った雄で遠慮なく穿つ。  届く限りの奥まで肉を抉じ開け、引き摺り、突き上げる。焦らした分、燻っていた熱が弾けたように激しく腰を叩きつけた。それでもアルベルトは待ちわびた快感に悦んだ。 「アヘってねーで言うことあるだろ、ん?」 「あ゛ッ……♡ りがと、ございます……俺の中、使ってくれ、て♡ うれし……れすぅ♡」 「よーしよし、素直な奴隷にはご褒美中出ししてやるからな」 「っは、はひ♡」  ひたすらに頷くアルベルトの顎を掴んだまま、もう片手で腰を支え速度を上げる。限界を悟りヨハンは中へ埋めたまま息を詰め、奥に向けて欲を解放した。 「んうぅ♡ あ゛ぁぁ……♡♡」  射精に合わせて雄を包む膣内が小刻みに震えている。結合をほどくと、アルベルトの身体がふらりと傾いた。倒れそうになるところを、危うく支える。  アルベルトを奴隷として扱うようになり、彼のあらゆる感度はますます上がっている。最初は拒んでいた挿入したままでの射精すらも、今では甘受し、快感でしかないらしい。 「あんたをオレの手で開拓していくってのも悪くねえな」  嫌う相手だからこそ、奴隷の名に相応しく、自分好みの身体に調教し尽くす甲斐もあるだろう。今は従順なふりをしているだけで、いつかアルベルトが寝首をかくつもりだとしても、今はまだ恐れる必要もない。その上、ただ抱くだけではつまらない。  ヨハンの腕の中で、アルベルトが顔を上げる。視線を合わせた瞬間、胸の奥がざわめいた。 「……お前の思うとおり、好きに躾けてほしい。俺はすべてを受け入れるから……」  心の底から理解ができない。何故、笑っていられるのだろうか。  非道な扱いを受けて、道具と同じに思われて。好きだというだけで本当にすべてを許せるとでもいうのか。 「どうしてそこまで――」  口から溢れた言葉を遮り、外から足音が聞こえてきた。先に気がついたヨハンは急いで衣服を整え、アルベルトを壁に追いやり背中に隠した。  貯蔵庫の扉が開き、息を切らせたイルゼが顔を出す。 「お二人とも、まだこちらにいらっしゃったのですね……アルベルト様、グンター様から、お戻りになられたのなら、お話があるので部屋を訪ねるよう、仰せつかりました」 「…………わかった。着替えたらすぐに向かうとお伝えしろ」 「承知致しました。……あの、どうかなさったのですか……?」  何かを感じ取ったのか、イルゼはアルベルトの様子を訝る。しかしアルベルトは顔をさっと拭い、直後には平然とヨハンの横を通り抜けていく。何食わぬ顔は彼のお得意だ。咄嗟にヨハンも素知らぬふりをする。 「アルベルト様は戻られたばかりで、お疲れなのでしょう。私も付き添い致しますか」 「大丈夫だ。お前はイルゼと仕事を続けろ」 「はい。ではまた後ほど」  大した神経だと呆れつつ、仮にアルベルトがぼろを出してヨハンの行いが筒抜けになるようなことがあれば困るので、知らぬ顔をしてもらうほうが助かるのは事実だ。少しばかり焦ったが、上手く誤魔化せたのではないかと胸を撫で下ろす。 「……ヨハンさん、私……なにかお邪魔を、してしまいましたか……?」 「いいえ、なんにも。さあ、急いで片つけましょう!」  心許ない表情を浮かべるイルゼにヨハンは大げさにかぶりを振り、そそくさと作業を再開した。

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