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第8話(R15)
「ところで、僕とユキさんが初めてした時のことなんだけど……」
あれから、伊福と沓名は共に20年という時間を重ねた。
大学生だった伊福は39歳になっていて、とてもそうは見えないが、大学生だった沓名は40歳になっていた。
ちなみに、沓名の話し方は一人称が僕から私になったくらいで、伊福に対しての話し方はあまり変わっていないが、伊福が沓名に対する話し方は やや砕けた言葉になり、沓名さんからユキさんになっていた。
「ああ、あの初めて直樹くんが私を抱いてくれた時のことですか?」
「そうそう。あの時のユキさんには色々、驚いたなって……って、そうじゃなくて、僕がなんでその話をしてるか、分かってる癖に」
伊福はあの初めて大学生の時、沓名を抱いた日の翌日からずっと不思議だったことがある。
それは沓名がコンドームをつけるのが妙に手慣れていたことだった。
「間違いなく、君以外とは寝ていませんよ」
沓名は伊福と出会った時点では恋人らしき人はいなかったし、それから20年間、ずっと別れることなく恋人の関係だった。
ただ、伊福が受験や大学での勉強、アルバイトで沓名をほったらかしてた時期もある。誰かと肉体関係を持っていたとしても、おかしくはない。
だとしたら、当時は流石に沓名に聞けなかったが、10年、15年、それ以上の年月になれば、時効だろうと伊福は思っていた。
「少し、残念だと思うけど、今更、そんなことくらいで僕はユキさんを嫌いになれないよ。もう20年もいるしね」
隠されて、騙されている方が余程ツラい。
当時を思い返してみても、沓名を思って、懸命にしていたことだったが、伊福が沓名にしていたのは沓名をほったからし、浮気に走らせてもおかしくない行為だった。そのことについては伊福が謝りこそすれ、咎めることはないから本当のことを言って欲しいのだと、伊福は食い下がるが、沓名は困ったように伊福を見つめている。
「まぁ、君にも私の言っていた意味が分かると思いますよ?」
もう数日か数ヶ月後に、と沓名はつけ加え、僕が呼んだら君は来てくれた、と沓名は惚気るように言う。当然、ますます伊福の脳裏には疑問符が浮かぶ。
だが、沓名の言っていたことは確かに正しかったのだとその7日後、伊福は思い知ることになる。
「……」
伊福は数日後、知らない場所で目覚める。知らない場所……とは対照的によく知った人が伊福を見ていた。彼が「気がつきましたか?」と声をかける。
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