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第9話
「良かった。目が覚めなかったら、僕、どうしようかと」
彼の名前のように白い肌。相変わらず美しいが、数日前に話した時よりも少し幼さを残す彼。
40歳の沓名雅雪ではなく、大学生の沓名雅雪だった。
「ようこそ、39歳の直樹くん……って、貴方の方が今の僕より年上で、何だか、変な感じですね。半信半疑で呼んでみましたが、よく来てくださいました」
伊福の前に差し出される沓名の手はやや華奢だが、伊福と同じか、少し大きく、沓名を初めて抱いた際に沓名に触れられた時のようだった。
「とうとう、頭がおかしくなったのか? 僕は」
伊福はとりあえず、手頃なホテルに泊まると、自身の泊まる部屋に沓名を呼ぶ。
慌てる伊福に、沓名は「まず、お茶でもいかがですか?」と言い、部屋に備えつけのポットで湯を沸かす。
「珈琲と紅茶とほうじ茶がありますが、ほうじ茶で良いですか? アメニティコーナーにお砂糖がなかったので」
確かに19歳の時の伊福は珈琲にも紅茶にも砂糖とミルクを入れて、飲んでいた。
39歳にもなると、伊福も職場の雰囲気で珈琲や紅茶に砂糖を入れずに飲むようにはなったが、ミルクは欲しい。伊福は「ほうじ茶で良いよ」と返すと、沓名は2人分のほうじ茶を淹れた。
「さっきも言いましたが、貴方に聞きたいことがあって、僕がお呼びしたんです。今、僕がおつきあいしている貴方から見て、20年後の貴方を」
「呼んだって……こっくりさんとか降霊術的な?」
「まぁ、イメージ的には近いかも知れませんね。こっくりさんや幽霊には実体がないですけど。僕もあまり詳しく分からないのですが、大学の知り合った人にそういうのに明るい方がいて、呼び出すのはどんな方でも構わないと言われたので」
沓名自身はあまりそういうものを信じないが、信じている人を笑ったり、否定したりするような質ではないことは伊福は知っている。
伊福は沓名が自分を呼び出した経緯を妙に納得すると、話を戻した。
「それで、20歳のユキさんが20年後の僕を呼び出してまで聞きたいことって……?」
伊福は20年前の沓名の淹れてくれたほうじ茶を口にする。程よい濃さに淹れられたお茶は咽喉にすっきりと馴染むように入っていく。
経緯こそ沓名が主体的な意思を持って、20年後の伊福を呼んだという訳ではないが、数多くの存在の中から20年後の伊福を呼んだのだ。それは紛れもなく沓名の意思である。
珍しく沓名も言いにくいのか、伊福がお茶を飲み終わるまで口を開かなかったが、伊福が湯呑みをベッドサイドに置くと、口を開いた。
「直樹くんは僕のこと、どう思ってるんでしょうか?」
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