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第2話

「こ、ここは?」  次にカルセドが目が覚ますと、そこは森の中ではなかった。いや、もっと正確に言うと、ここはカルセドが足を負傷してしまった崖の前ではなく、どこかの小屋の中のようだった。  カルセドは小屋の中のベッドの上に寝かされているようで、何とか、痛みの走る足に力を入れて、ベッドから起き上がろうとする。 「今は無理をして起き上がらない方が良いと思うぞ?」  カルセドは驚いて、声の聞こえた方を見る。  声の主はカルセドと同じくらいの年の青年で、彼はゴトリともっていたトレイをベッドの近くにあるテーブルへと置く。  カルセドの鼻が感じ取った匂いからすると、食べ物のようで、カルセドは自身が住んでいた町の夕暮れ時に漂ってくるものを思い出した。 「貴方が助けてくださったんですか?」  カルセドは唯一、自由に動かせる口を動かすと、青年に問う。  すると、青年は「そういうことになるのかな?」と言う。 「助けた、なんて烏滸がましいことは俺はしたつもりはないんだ。まぁ、そういう気分だった……とかあるだろ? あとは何か、他に理由があったりな?」  青年はそんな風に続けると、笑ってみせる。  見た目だけで言うと、青年は良質な木を思わせる優しい茶色の髪をしていて、瞳も若草の色を与えられたような優しい緑をしている。そして、それらに違わず、人が良さそうな笑顔だ。  だが、弧を描いた口端から出てくる言葉はどこか皮肉めいていて、カルセドは青年の人柄を測りかねた。 「理由……ですか?」  カルセドは少し考えてから、青年に声をかける。  青年の名前はベリルト・レリプットというらしく、ヴェスヴィア森林地帯の生態系を研究している学者とのことだった。 「まぁ、生態系を研究している身とは言え、俺も君も食わなければ死ぬ。襲いかかってきたり、助からないくらい怪我を負った獣を食うこともある」  ベリルトは多少、獣医学も齧ったこともあるようで、カルセドに口を開けるように命じると、口に何かの薬を入れる。 「よく噛んで、飲み込んで」  と熱もなく言われ、カルセドはその通りにすると、この世のものとは思えない程、苦味とエグ味がカルセドを襲う。 「うぅっ!」  カルセドの舌が拒否し、吐き出しそうなのを堪えると、ベリルトに与えられた薬を嚥下する。その様子を見ていたベリルトは目を丸くする。 「よく飲めたなぁ。初めて飲んだら、まず吐き出すか咽せるかして、飲める人間は少ないのに」  ベリルトは感心するように言うと、今度は「起き上がってみろ」と言う。それにもカルセドは「はい」と答えると、起き上がる。  先程は起き上がるのに、痛みが走っていた足が何も感じない。感覚がない訳ではない。傷が癒え、カルセドの足が元の健康な足へ戻ったような感じだった。 「でも、気をつけろよ? 気休めみたいな鎮静剤だから怪我自体が治った訳じゃない。治ったように感じても、所詮は偽薬みたいなものだ」  それから、カルセドはベリルトの作った食事を食べると、また暫く眠りにつくことにした。  偽薬の効果ではない、本当に治癒させる為に。

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