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第3話
1ヶ月ほどのベリルトの献身的とも言える看病の末、カルセドは驚異的な回復を見せる。
元々、カルセドは病気とは無縁な身体を持ち、怪我の治りも人と比べると、早い方だった。
「しかし、君の回復力には驚いたな。前に君と同じくらいの男が同じような怪我をしていて成り行き上、治療したことがあるけど、治るには半年程はかかっていた」
ベリルトはそんなことを言うと、ベッドに座って、窓の方を見ていたカルセドに温かいスープの入ったマグを渡す。研究員への支給品ということで、マグのデザインは薄いメタル製の非常にシンプルなものだが、カルセドはこのスープがもの凄く洗練され、美味いことを知っている。
料理は科学だ。そんな異国の言葉をカルセドに体感させる男、それがベリルト・レリプットだった。
「いや、貴方が助……いえ、私に薬と食事と寝床を提供してくれたお陰です。そうでなかったら、獣に食われるか、餓死していたか」
カルセドは「助けてくれた」とは言わず、客観的な事実を口にし、窓の方をちらりと見る。
昼はベッドで眠るには強過ぎる日差しが入り、夜は真っ暗な森を悪戯に明るくすると理由で普段はカーテンがかかっているが、今日は霧が立ち込めているのだろう。
スープを飲み干し、空になったマグを持ったまま、カルセドはカーテンを開けると、まるで、世界にはカルセドとベリルトしかいないような錯覚にさえ陥る。
「君は存外、素直なんだな。まぁ、もっとフランクに話してくれても良いんだけど」
まるで、功績を敬っている後援者と話しているような気分になる、とベリルトは笑う。すると、カルセドは謝った。
「すみません。これでも、割と崩している方で」
カルセドは自身の育ったアイドクレースの町について簡単に語る。アイドクレースはヴェスヴィア森林地帯から北西部に位置している町で、文官武官を問わず、優秀な人材を多く輩出する土地だった。
「両親も先生も友人も割とこんな感じなので、すみません。気になるようなら、あまり話さないようにしますけど」
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