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ぼくらのはじまり(2)

そういったわけで、僕らは電車で動物園に来た。 すごく久しぶりだ。確か両親が生きてた頃に家族で来たっきりだ。 「お前、お金持ってる?」 「あ、はい持ってます」 「そーか、それは頼もしいな。昼飯とか奢ってもらえそうかな〜」 「あ、でも入園料払ったら、あと帰りの電車賃しか…」 「え、金持ってるって」 「はい、500円くらい」 「500円〜?!」 「…」 「…あはははっ お前って真面目なヤツなんだな。わかった。今日のところは俺が出すわ」 「…すいません」 どうも遊び人の彼とは、金銭感覚が違ったらしい… 平日だったこともあり、園内はガラーンとしていた。色々な動物を見た。パンダもゆっくり見れた。 意外にいちばん面白かったのは、ペンギン! ずーっと空を見上げて固まっていると思うと、突然!タタタっと走ってザブンと水に飛び込み、スイ〜っと泳いで陸に上がり、ブルブルっと水気を吹き飛ばすと、 また固まって空を見上げる。 を、ランダムにくり返す。 「ふふっ ペンギンって、なんか倉田さんみたい」 何考えてるか全然わからないところが。 「いーよ『さん』とか付けないで」 「えっ?」 「冬樹でいーよ。タメ口でいーよ。お前は?なんて名前?」 そーいえば、まだちゃんと名乗ってさえなかった。 「あ、えっと (かおる)滝崎(かおる)です」 「ふーん…。よし、郁、次どのペンギンが飛び込むか、賭けない?」 「いーですよ。うーん…と じゃあ僕は、あの左から3番目のヤツにします!」 「なるほどね、俺はねえ… 大穴狙いで、今上がったばっかりの右から2番目!」 「読みが深いなー」 「…」 「…」 タタタっ ザブン! スイ〜〜 「残念でしたー」 「あはははっ 全然ハズれたなー」 特に立ち入った話はしなかった。僕も、もちろん冬樹も。 ただ僕は、一見怖そうな不良少年の、優しい素顔と一緒にいられるだけで、とても嬉しかった。 でも、表面は優しくても、全く閉ざされた彼の本心に触れられないことが、少しだけ淋しかった。 夕方になり、僕らは地元の駅で別れた。 「今日は色々とありがとうございました」 「じゃあねー」 「冬樹は、これからまたどっか行くの?」 「まあね。 …またサボってどっか行こうな」 「うん…今度は…」 「うん、なに?」 「今度は、もっと冬樹がいつもサボるとき行く所に連れてって欲しいな…」 「えっ…ははっ そおだな、考えとくわ。じゃーね、バイバイー」 やっぱり彼は僕とは違う。違う世界の人間だ。 そう思えることが、僕はとても淋しかった。 そして、その彼の住む、違う世界への憧れが、どんどん膨らんでいった。

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