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ぼくらのはじまり(3)

それから、僕と冬樹は、たまに一緒に遊ぶようになった。 といっても、朝たまたま会うか…放課後に走って冬樹のクラスに行って待ち伏せるか、 といっても捕まえられる確率は、非常に低かったけれど。 そんな感じだったので、クラスの仲間と遊ぶ機会も減った。 滝崎、最近ヤバい先輩と連んでるらしいって、言われたりもしてるらしい。 やっぱりね、あすこんち親いないからね、とか。 そんなことはどうでもよかった。 とにかく、冬樹を捕まえることばかり、考えていた。 もうずーっと、会えてない。 昨日も、一昨日も、会えなかった。 つまらないので、1人でサボって遊びに行ってしまった。 でも、でも、今日はどうしても、どうしても会いたい! なぜなら、今日は冬樹の誕生日だからだ! 直接聞いたわけではない。例の、星の王子様の本に、名前と誕生日と、血液型まで書いてあったんだ。 なので、今朝も待ち伏せ作成で撃沈したので、放課後こそは、と気合いを入れていた。 ー放課後ー 「礼」の掛け声とほぼ同時に、教室を飛び出して冬樹のクラスに向かった! 「すいませんっ 倉田さんいますか?」 「あ、また君ね。今日はいるよ。さっき小林に呼ばれて職員室行ったよ」 「マジですか!ありがとうございます〜」 そして職員室へ走る。 小林っていう先生は、生活指導の主任で、富永先生ほどの若さとバイタリティーはないものの、地道に生徒の理解を得ている先生で、冬樹もこの人のことは嫌いじゃないらしい。 「失礼しますー」 チラッと職員室を覗くと、小林先生の机の横に、冬樹が立っていた! ああーよかった〜 やっと今日は捕まえられた。僕はドキドキしながら、職員室の前で、冬樹が出てくるのを待った。 20分くらい経っただろうか。ようやく冬樹が出てきた。僕は駆け寄った。 「冬樹〜よかった。今日は絶対会いたかったんだ」 冬樹の腕を掴んだ。 …と、突然、その腕を振りほどかれた。 「…?」 僕はビックリして、冬樹の目を見た。 いつも僕と一緒のときの、優しい目つきでは、なかった。 「お前、なに?勝手にサボったりしてんの?どーいうつもり?」 「…」 「困るよなー、俺が怒られるんだよねー真面目な生徒を巻き込むなーって」 ビックリして、何も言えない僕に向かって、冬樹は続けた。 「調子乗ってサボってんじゃないよって話〜」 そう言いながら、彼は僕の襟元を掴んで詰め寄った。 僕は怖くて、思わず泣きそうになった。 「な、なんだよ、自分のこと棚に上げて…急に先生面して」 弱々しく、僕はやっと言い返した。 「人の気も…人の気も知らないで!」 「ああ、知らねーよ」 とうとう僕の目からは涙が溢れた。 「なんだよ…ふ、冬樹に会いたかったんだよ…ぁんだよ、人の気も知らないで。…ええい、離せ!」 僕は冬樹を突き飛ばし、そのまま走って家に帰った。 なんだよ、冬樹のヤツ…人の気も知らないで… 所詮あいつは、違う世界のヤツなんだ… もうあいつのこと考えるのはやめよう… 誰も居ない家の2階の部屋で、僕はずっと、膝を抱えて泣いていた。 夜の10時を回った頃、兄貴が帰ってきた音がした。しばらくして、電話が鳴った。 「おーい、いるか? 郁ー」 「…?」 僕は階段を降りていった。そういえば、兄貴と顔合わすのは、久しぶりかも。 「元気?」 「うん」 「電話、倉田って人から」 「…ありがと」 「じゃあねー おやすみ」 倉田…? 冬樹? なんで? 「…もしもし?」 「あ、郁? 俺。 今の兄ちゃん?」 「…うん。…なに?」 「あ、あのさ…今日はゴメンな。俺、言い過ぎたよな」 「…」 「悪かった。ホントにすいませんでした。お前の気持ちとか、考えてなかった」 まさかの…素直な謝罪に戸惑った。 いやでも、ちょっと考えたら… 冬樹の性格をちゃんと分かっていれば、むしろ逆ギレした自分の方が悪かったのではないか。 「ううん。むしろ僕こそごめんなさい。だって、本当に、サボったりしてたわけだし」 「じや、勘弁してくれる?」 「うん、もちろん!」 「よかった〜  な、お前、明日ひま? あ、いや放課後ね」 「うん、大丈夫」 「よし、じゃ、遊び行こう。約束!お詫びに俺、奢ります」 「ほんと〜?」 「うん。じゃあ、終わったら校門とこで待ってる」 「うん、わかった!」 「じゃ、明日ね。おやすみー」 「おやすみなさい」 約束! 冬樹とちゃんと約束するってのは初めてだった。 僕は、本当に、とてもとても嬉しかった! ちょっと怖い冬樹。でも、ホントはとても優しい。 第一、僕んちの電話番号なんて、どうやって調べたんだろう? …わざわざ、謝るために。 冬樹…君は良いやつだ。 僕は…僕は、冬樹のことが、大好きだ…。 そして、次の日の放課後までの、時間の経つのが遅かったこと!

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