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ぼくらのはじまり(4)
「どこか行きたいとこありますか?」
「えーと、いっぱいありますけど、いいですか?」
「…言ってみて」
「まず、ロフトで買い物して〜サンシャインの水族館に行って〜展望台行って〜最後にごはんってコースでもいいですか?」
「水族館に展望台か…ファミリーかカップルだな」
「ダメ?」
「いや、約束だからな。いーよ、行こう」
本当は、一緒にいられるならどこでもよかったのだが。
まさか、こんなコテコテの盛りだくさんコースを、いーよって言ってもらえるとは。
言ってみて、よかった。
コース通り、まず僕らは、ロフトに行った。
「何買うの?」
「友だちの誕プレ買いたいんだよねー。あっコレは奢ってくれなくていいよ」
「あたりまえだ!」
「選んで貰えたらなーと思うんだ。その友だち、ちょっと冬樹に似てるから。冬樹だったら何が欲しいかなーと思って」
「そーだなあ…俺は、酒がいいな」
「……他には?」
「煙草」
「えー なんかもう〜張り合いないなー」
「うーん…じゃあ、あれは?」
冬樹は、スタスタと食器売り場の方へ歩いていった。
カップやグラスがたくさん並んでいる一角の、ビールジョッキの売り場の前で止まった。
「これこれ」
「なるほどービールジョッキね」
「俺ね、これが欲しいんだよねー」
彼がヒョイっと手に取ったのは、ステンレス製の銀色のタンブラーだった。
「へえー こんなのあるんだ」
「コレだと。いつまでも冷たいらしいんだよね」
「うん、じゃあこれにしよう」
「マジで? そっか、いいなあ」
僕はそのタンブラーを、2つ買った。
ひとつはプレゼント用に包んで貰って、もうひとつは自分で使おうと思った。
冬樹とお揃いで…
「じゃあ次は、水族館ね」
「でもさ、これから水族館行ったら、展望台まで行く時間なくなるかもしれないけど、大丈夫?」
「ホントだ…どっちかといえば、展望台かな。水族館は、また次の機会に繰越にしよう」
「繰越ですか。しっかりしてるなー。じゃあ展望台行くか」
僕らは、サンシャインの展望台に向かった。
結構近くに住んでいるのに、実は小学校の社会科見学でしか来たことがなかった。
高速エレベーターが、60階に着いた。僕はワクワクした。
「うっわあ〜 すっごーい!」
ちょうど夕焼けの時間だった。
目の前に、どお〜っと広がる街並みの、その向こうに、太陽が真っ赤に燃えながら、今にも沈もうとしていた。
「すっごい、きれい…」
「うん…」
僕らは、小さく仕切られた窓のひとつに腰掛けて、沈んでいく太陽を、見届けた。
陽の落ちた東京は、瞬く間にネオンや灯りが広がり、まるで星空のようなイルミネーションを作っていった。
冬樹が、ぼそっと呟くように言った。
「俺は、夜景がすごく好きだ」
「…うん。僕も…。こんなの初めて見た」
「前に住んでたとこが海に近くて…夜中に海岸沿いの道に出ると、向こう岸の灯りが海に浮かんで見えて、すごい綺麗だった」
「ふう〜ん」
「夜景を見ると、あすこを思い出す…」
冬樹が自分のことを話すのは、初めてだった。
僕はじっと、彼の目を見た。
「昔ね、憧れてる先輩がいたんだ。カッコよくて優しくて…ま、いわゆる暴走族的な人だったんだけどね」
遠い目をして、彼は、続けた。
「俺はとにかく、その人について行きたくて、学校もサボって、免許もないのにバイクも乗り回したり、してたわ」
「そうなんだ」
「とにかく、その人のそばにいたかったし、その人みたいに、なろうと必死だった」
「…」
「でもね、まあよくある話かもしらんけど…その人、事故って死んじゃったんだよね」
「…」
「そしたらもう、なんか全部どうでもよくなっちゃって…それからいっぱい悪いことした。自分ではどうにもならないらいくらい、どんどんハマってった」
ちょっとビックリした。
そうだったのか。そこはかとなく醸し出される彼の雰囲気は、そんな過去があったからこそなんだな。
「結局捕まったんだけどね、そのときは何だかホッとしたんだ。自分じゃどうにもならなかったから」
「鑑別だけで済んだけどね。でももうそこから離れたかった。何もかも忘れたかった」
「で、転校させてもらったんだ。独りで、こっちへきた」
「冬樹の家族は?」
「おふくろと兄貴向こうにいる。でも、ほとんど会ってないな。一応金は貰ってるけどね」
「へえー 一人暮らしなの?」
「うん」
「うちも…兄貴は一応いるけど、ほとんどお互い干渉しないから、一人暮らしが2人いるようなもんだよ」
「めしとか一緒に食わないの?」
「うん、キホン別々だなー ホントにたまーに食べに連れてってくれることもあるけど」
冬樹が、次々と自分のことを話してくれた。
僕も、取り憑かれたように、自分のこと、いっぱい話した。
彼のことが、本当にわかってきて…そして、彼にも僕のこと知ってもらうのが嬉しくて、
そして夜景がたまらなく綺麗で…
僕はもう、胸がいっぱいだった。
「もう8時か」
「あ、うん」
「じゃあ、何か食って帰るか」
「うん」
後ろ髪を引かれる思いだったが、僕らは展望台をあとにした。
階下のレストラン街で夕飯を食べた。
「これから、どうする?」
「…うん」
もっともっと、ずっと冬樹と話したかった。
「飲みに、行くには制服だからヤバいし…うちに来るか?」
「えっ?ホントに? 行っていいの?」
「いいよ。散らかってるけど」
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