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ぼくらのなつやすみ(3)

次の日も、朝食を済ませたあと、僕らはすぐに海岸へ向かった。 前日同様ねぐらを作り、あとはそれぞれ、好きなように海辺での時間を過ごしていた。 さて、僕も行ってみるか。 白い砂浜の先に真っ青な海… 僕は、その青い水の中に、少しずつ入った。 太陽が熱い。 水の冷たさが心地良くて、僕はどんどん先へ進んだ。 波がそれほど高くないので、割と楽に進める。 やがて、足が届かなくなった。 どこまで行けるかな? 僕は、どんどん泳いで行ってみることにした。 水が透明で、顔をつけて水中を見ると、ずーっと下の方に、ダイバーが潜っているのがみえた。 そんなに深い所まで来ちゃったか〜 それでも、もう少し先にブイが見えていたので、まだまだ遊泳圏内ではあるハズ。 ふと、水から顔を上げて僕は、目の前に更にどこまでも拡がる海を見渡した。 すっごい広い…! なーんて大きいんだろう 地球って、大きいんだなー ここは地球なんだって、改めて正直に思えた。 大きな地球の自然の中で、僕はホントに小ちゃいんだなと… 宇宙があって、そこに小さな銀河があって… その中の米粒みたいな小さい星に… ホントにホントに小ちゃ〜い僕がいて… 冬樹のことなんかで迷ってる。 僕の悩みなんて、どーでもいい事なんだよなあ 水平線の向こうに、冬樹の姿が見えるような気がした。僕に向かって微笑んでるように見えた。 《俺の気持ちは決まってる》 冬樹… そうだね、冬樹、僕も君が好きだ。 ずっと君と一緒にいたいっていう、正直な、自然な気持ち。 とっくに決まってたじゃないか! 急に身体の力が抜けて、僕はブクブク沈みそうになった。 焦ってジタバタしながら、近くに浮かんでいたブイの所まで進んだ。 ブイに掴まって、ちょっと落ち着いて、また水平線の向こうをみつめた。 地球が、自然が動いている。 海も空も、自然に身を任せて、こんなに美しく輝いている。 僕も自然に身を任せよう。 自然に僕の中にある気持ちに任せて、冬樹を好きでいよう。 僕はきっと… きっと、冬樹に出逢うために生まれてきたんだ。 冬樹を好きになることこそが、自然なんだ。 僕はなんだか、とても清々しい気分だった。 海岸は遥か彼方で、ここからまた泳いであんな所まで戻らないといけないのかと思うと、ちょっとだけ気が重くなったけれど。 「おーい、郁〜」 ブイに掴まって、途方に暮れているとでも思われたのか、茂樹が心配そうな顔でこっちへ向かってきた。 「大丈夫?」 「うん、全然へーき」 「スゴい所まで来たねえ。ひとりで戻れる?」 「うん、たぶん」 「一緒に行こう。疲れたら、俺に掴まればいいよ」 茂樹は水泳部だから、こんな距離は屁の河童なのだ。 「ありがとう、わかった。じゃ、戻る」 茂樹は僕の後ろについて、心配そうにしていたけれど、清々しい僕の方は、なんだかすっかり気合いが入っていて…結局一気に、足が届く所まで泳ぎついた。 「スゴいじゃん郁。 これでフォームさえちゃんとしてたら、水泳部でやっていけるよ」 「はあ、はあ、疲れた〜 もうムリ〜」 「もう一息!がんばれー」 最後はさすがに茂樹にちょっと支えられながら、やっとの思いで、ねぐらにたどり着いた。 了さんに、笑いながら言われた。 「郁、お前バカなんじゃないの?」 「う〜 もうダメだ、もういい、もう寝る…」 「じゃあまた荷物番担当よろしく」 「ふぇ〜い…」 僕はそのままシートに倒れこんで、いつの間にか、眠っていた。 ふと目が覚めると、隣に茂樹が座っていた。 「あれ?泳がないの?」 「うん」 「なんで?」 「お前が心配だから」 「そんないいのに、気を遣わなくて…」 そのときの茂樹の言葉なんて、これっぽっちも気にかけなかった。 迷いも晴れて、清々しい気持ちの僕には、冬樹のことしか頭になかった。

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