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ぼくらのなつやすみ(4)

夜は、みんなそれぞれ思い思いに過ごした。 道明たち4人は、若干繁華街的な場所へ遊びに行き、了さんは、ホテルの施設の風呂やサウナを楽しんでいた。 残った僕と茂樹は、差し当たり、夜の海岸へ行ってみることにした。 「なーんか、カップルばっかりだねー」 花火を上げてるグループもあったけど、やっぱり男女のカップルが多かった。 「今頃は道明たちも、上手いことやってるんだろうな」 「茂樹も一緒に行ったらよかったのに」 「いいの、俺は。 お前がいれば」 えっ? ちょっとドキッとした。僕は急いで話をそらした。 「…僕らも花火持ってくればよかったね」 「そーだな、どっかで買って、明日みんなでやるか」 「そーしよう」 そしして僕らは、花火を買ってホテルに戻った。 次の日は、海岸ではなく、島の真ん中にある山に登ったり、自転車を借りてサイクリングをしたり… 道明たちが、ちゃっかり仲良くなった女子グループと一緒にビーチバレーをしたり… 僕も、胸の中にしっかり冬樹を焼き付けながら… 真夏の海を、目一杯楽しんだ。 そして最後の夜… 女子グループも一緒に、盛大に花火大会をやった! 「このあとどーする?」 「最後だし、もーちょい呑んで帰るか」 道明たちと女子たちは、まだまだ盛り上がってる感じだった。 「茂樹、お前も来いよ!」 「うーん、俺はいいや」 「了さんは?」 「俺はホテル戻る。風呂入って飲む」 (おじさんか) 「じゃあ、とりあえず解散するか」 「そーだね、じゃあまたね」 「郁くん〜また遊ぼうね」 女子が声をかけてきた。 「あ、はい」 「郁、お前モテるなー」 「なーに言ってんだよ、もう!」 他のメンバーが、それぞれ最後の夜を楽しみに行ってしまい、結局…また海岸に、僕と茂樹が残された。 僕らはしばらく海岸を歩いていった。 やがて、僕らの泊まってるホテルの下の岩場の辺りまで来た。 「なあ、郁、肝試ししない?」 「えっ なに、ホントに?」 「子どもの頃、よく田舎の寺とかでやったろ?」 「懐かしいなあー。うん、いいけど、寺なんてないじゃん、ここ」 「へへっ 実は、いい場所見つけたんだよなーこれが。こっちこっち」 茂樹は岩場をどんどん進んで行った。 僕も必死でついていった。 「ほら、あれ」 ホテルの裏手は崖になっていた。その、ちょうど真下辺りの岩場の奥に、暗い洞窟のようなものが見えた。 「うわあっ すごーい…」 「あの中に入るっての、どう?」 「うん…ちょっと怖そう…」 岩を乗り越えて近寄ってみると、それは結構大きい洞窟だった。 辺りが真っ暗なので、その穴の入口は本当に真っ黒で、中がどうなっているのか全く見当がつかない。 怖いけど、ちょっとワクワクする感じ。 「行ってみよう…」 恐る恐る、穴の中に足を踏み入れた。 本当に真っ暗で、前が全然見えない。 手を伸ばして前方を確認しながら進むうち、入口から2メートルもしないうちに、岩の壁に触った。 「あれ? なんだ、ここで終わりじゃん?」 僕は振り返った。 穴の入口が青く見え、茂樹の影が、大きくそれを塞いでいる。彼の表情はわからなかった。 …と、突然! 彼の両手がバッと伸びてきて、僕の肩を掴んで岩の壁に押し付けた。 「い、痛いっ 何すんの?」 だんだん暗闇に目が慣れてきて、彼の表情がぼんやり見えた。 「郁…好きだ」 それは、いわゆる『男の顔』とでも言ったらいいか。 獲物を見据えた獣の眼、とでも言ったらいいか。 僕の身体は本能的に一気にふるえだし、死ぬほど彼が怖くなった。 「キスしたい」 「なっ…冗談やめてよ…うっ…」 あっという間に、彼に口を塞がれた。 僕は渾身の力を込めて、彼の両手を振り解いた。 「離せっ」 入口に向かって走ろうとした僕の腕を、彼は思い切り、ぐいっと引いた。 そして背中から、力強く抱きしめられた。 「好きなんだ…」 ぴったりと、彼の身体が僕に貼り付く。そのとき僕は、彼の硬くなったモノが、腰の辺りに押し付けられるのを感じた。 「決めてたんだ。この旅行の間に…絶対にお前を抱いてやるって…」 抱く? なにそれ、どーいうこと? 後ろから回された彼の両手が、僕のシャツのボタンを外し始めた。 「や、やめろっ…」 彼の手が、僕の胸に滑り込まれ、その指が、愛撫を始めた。 怖くて、恥ずかしくて…ドキドキしながら、僕は必死に足掻いたが、もう、僕の力では、どうにもならなかった。 「可愛いね…郁…」 彼は僕の首すじに口付け、舌先ですーっと舐めた。 それが、乳首を触られている指の感触と混ざりあって、僕の身体は、ビクッと震えた。 「いやだ…やめて…」 彼の右手が、すーっと下へ降りていき、ズボンの中に滑り込んだ。左手と口はそのまま愛撫を続けながら… 「あっ…」 だめだ、やめて…僕に、こんなこと… 冬樹…助けて… 生まれて初めて他人に触れられて、僕は、感情とは裏腹に、身体がどんどん熱くなっていくのを感じていた。 「あっ…やめて、お願い…いやっ…」 彼の手の動きが、どんどん速くなった。 「あ…ああ…」 手の動きを止めないまま、彼は僕のズボンを一気に剥ぎ取った。そして、その場にうつ伏せに押し倒した。 ワサワサと、彼が自分のズボンを脱ぐ音がしたとき、僕の心は恐怖で張り裂けそうだった。 でも、裏腹に身体が…もの凄く熱くなって、 身体の芯がぼーっとなってきて… 彼の手を振りほどくことが、出来なくなくなってしまっていた。 後ろから、僕のモノへの愛撫を続けながら、ついに彼は、自分のモノを、僕の中に入れてきた。 「うう…い、いたい…」 彼は、ゆっくり…強引に、奥まで押し入ってきた。 そして静かに僕の様子を見ながら、再び左手で僕の乳首を弄りながら、右手の動きを最高に速めた。 「あ…あ、ああっ…」 僕は、とうとうイってしまった。 身体中から、一気に力が抜けていった… 僕がイったのを確認した彼は、今度は自分のいいように、腰を、激しく動かしはじめた。 僕の痛みなど、全くお構いなしに… 「あっ…郁…ああっ…最高だよ…」 本当に、凄まじい痛さだった。僕はもう、声を出すこともできなかった。 彼が終わって、僕から自分のモノを引き出したとき、僕は、あまりの痛みと、恐怖とショックで、そのまま気を失った。 冬樹… なんでこんな… 僕は、犯された。 僕は、汚れた。 僕は、こんな形で、冬樹を、裏切ってしまった… 気が付くと、ホテルのベッドの中だった。 身体中が痛かった。でも、それ以上に、心が痛かった。 「郁、大丈夫?」 「…うん」 「岩場で滑ったんだって?茂樹が抱えてきたんだよ」 「…」 「帰ったら、病院行っとけよ」 「…うん」 次の日の朝、僕らは帰りの客船に乗り込んだ。 僕は最初からひとりで、甲板に出た。 「郁…」 茂樹が近付いてきた。 僕はビクッと身を引いた。 「乱暴なことしたけど、後悔はしてないよ」 「…」 「俺は、お前を愛してる」 自信に満ちた口調に似合わず、その表情は震えていた。 「…僕はもう、どこにもいけない…」 茂樹が憎かった。死ぬほど憎かった。 「俺のところに来ればいい!」 「はっ?ステキな冗談だね」 「冗談なんかしゃない!俺はホントに…」 彼がにじり寄ってきた。僕は思わず叫んだ。 「近寄るな!」 彼はビクッと止まった。 「それ以上近寄ったら…飛び込んでやる!」 「…」 「…」 茂樹は、それ以上僕に近寄っては来なかった。 僕は彼に背を向けた。 海が青く、キラキラと光っていた。 その光は、やがて滲んで、僕の目から溢れ落ちた。 冬樹… 冬樹が好きだ。 ごめんね、冬樹。 もし、君が僕を許してくれるなら… いや、ダメだ。 もし僕が、忘れることが出来たなら… 僕の目の中の冬樹が、海の光と一緒に溢れ落ちてしまった。

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