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ぼくらのふゆ(1)
あれから冬樹とは、特に干渉のないまま、2ヶ月ほどの月日が過ぎた。
もう、季節は秋から冬へ移ろうとしている。
心の中の寒さに、冷たい風がやけに身にしみた。
『待って』いてくれる冬樹への罪悪感。
僕の中の葛藤は、そう簡単には治りそうもなかった。
「郁、帰ろう」
「あ、うん」
因がいつものように声をかけてきた。
「お前、なんか元気ないよねー」
「…そんなことないよ」
「ねえ、試験も終わったし、今日、郁んちに遊びに行ってもいい?」
「いいよ。あ、なんならよかったら泊まる?」
「いいの? じゃあそーする。明日休みだし」
「じゃ、また後でねー」
いつもの場所で、因と約束して別れた。
そっか、因が来るなら、ちょっと片付けとかなきゃ。
因は、僕のことが気になっていた。
そして、今夜こそは、僕がどうして悩んでいるのか、聞き出そうと考えていたのだ。
そのとき…
「ちょっといいかな」
突然、何人かのヤツらに、因は取り囲まれた。
「な、なんだよ」
「いいからちょっと来い」
あっという間に腕を掴まれ、因は人気の少ないビルの裏側に連れて行かれた。
「あ、あんた達!」
例の、先輩バンドのヤツらだった。
リーダーの浅岡が、因の前に立って言った。
「お前、滝崎のお友達だろ?ちょっとばかりお願いがあるんだけど」
「郁の?」
「別に難しいことじゃないと思うんだ。最近さあ、あいつ元気ないじゃん」
「…」
「あんなに倉田と仲良かったのに、なーんで急にこんなになっちゃったのか、その理由が知りたいんだよね。お前だって気になるだろ?」
「別に」
「そー言わずにさ、相談に乗ってやりなよ。聞き出して来いよ」
「なんで?そんなこと…」
「だから…ただ理由が知りたいだけ」
「そんなん、なんであんた達に言わなきゃいけない」
浅岡はニヤッと笑った。
「お前、妹いるよな。1年に」
「…!!」
「別に〜 お前が協力してくれれば、なーんにもしないよ」
「くっ」
その中のひとりが、因を地面に突き飛ばした。
因は地面に倒れた。
「痛い目に遭いたくなければ…妹ちゃんに危害を加えたくなければ…」
うずくまる因に顔を近づけて、浅岡が囁いた。
「真相を聞き出してきて。それだけ」
そしてヤツらは、因の前から立ち去った。
因はこのとき、郁なんかと友達になってしまったことを後悔した。
恐ろしくて、とにかく自分の身と妹の身を守るために、郁から聞き出さなければ!と考えていた。
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