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ぼくらのふゆ(4)

気が付くと僕は、線路を見下ろす高い橋の上に立ちすくんでいた。 『レイプされた』『挿れられた』 そんな、単純明解な浅岡の言葉の数々が、僕の心に深く突き刺さっていた。 しかも、ヤツらにまでイかされた。 それを、冬樹に見られた。 僕は、僕の身体は、他の男たちに汚された。 冬樹のことが大好きだ。これは本当に間違いない。 冬樹のためなら、きっと自分の命も惜しくないくらい、愛してる。 …でもダメだ。 僕は、彼を愛せる身体じゃない。 もういらない。こんな身体、いらない… 僕は死ぬ気だった。本当に死にたかった。 生まれ変わったら、今度は絶対に、綺麗な身体のまま、冬樹と愛し合うんだ… 冬樹…大好きだ… 僕は橋の柵によじ登った。 線路を見下ろし、向こうから電車が来るのを確認した。 そのとき… 「…?」 誰かが、後ろから僕の身体を掴まえた。 「なんだよっ 離せよ!」 「死にたいのか?」 冬樹だった。 彼は僕をムリやり柵から引きずり下ろすと、僕の両手をしっかり握りしめた。 「だって、もう…こんな身体で、生きてたってしょうがないじゃないか…」 僕は泣きながら身をよじった。 「冬樹だって、もうこんなヤツは嫌でしょ?僕だって嫌なんだ!…もう、生きているのは嫌だ…」 「…そんなに死にたいのか?」 「死にたい!」 即答した僕に、冬樹は静かな口調で言った。 「じゃ、お前、今ここで死んだってことにしていい?そしたら、俺がお前の死体を貰っていくから」 「…?」 「俺が貰ってく。死んでるんだから文句ないだろ?」 「…なんで?」 「なんでも何も、俺はお前が欲しいんだよ」 冬樹は優しく微笑みながら、ゆっくり噛みしめるように続けた。 「お前の身に起こったことで、俺は確かに悩んだし、苦しかった。…でもな、郁、お前の方が俺以上に悩んだろ?俺よりずっと苦しかっただろ?」 「…」 「一緒だ。だからそんなに気にするな」 「…」 「お前じゃなきゃダメなんだよ。何があっても…やっぱりお前じゃなきゃ…」 冬樹はそう言いながら、僕をしっかり抱きしめた。 僕も泣きながら、冬樹にしがみついた。 「…冬樹…ごめんね、ごめんねっ」 「ばーか、謝って済むことじゃねーよ」 彼はそっと僕の顔を撫で…僕に口付けた。 「これで勘弁してやる」 僕は、冬樹の腕の中で、いつまでも泣いていた。 この人は、 なんて大きな心で僕を包んでくれるんだろう… 冬樹、君は本当に、 あの大きな海のような人だ… しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻してから、僕らは冬樹の家に行った。 銀のタンブラーもちゃんとまだあった。 とても久しぶりに、僕らは夏休み前のように、2人でビールを飲んだ。 「お前に見せようと思って、実家から持ってきたんだ」 と言って冬樹は、子どもの頃からの写真を見せてくれた。 小学生の冬樹…お母さんとお兄さんと一緒の写真… 運動会の写真… (ちょうど4ねん3くみの頃か) 「小ちゃいときから怖い顔だったんだねー」 「そんなことねーよ。かわいいだろ?」 「あっれー!これも冬樹ー?」 それは、前の中学のときの写真だった。 短髪で、しかも金髪! 「ははっ…いちばん酷かったときだなー」 暴走族の人たちとの写真も何枚かあった。 「ねえ、冬樹が憧れてた先輩ってどの人?」 「んー…これ。この人」 その人は目つきが鋭く、髪は長くて、今の冬樹によく似ていた。 「冬樹に似てるね…」 「そう?俺、こんなにカッコいい?」 「くっくっくっ…」 「なんだよ、笑うなよなー」 でも僕は、ちょっと気になることがあった。 「ねえ冬樹…この人とは、ホントに何もなかったの?」 「ん?うん、なかった。この人とはね」 「えっ?じゃあ…他の人とはあったの?」 「んー…この人は彼女もいたし、普通の人だったんだけど…この人と連んで割と仕切ってた人が、やっぱゲイでね。その人とはちょっと…」 「えっ!やったの?」 「うん、まあ近いことは…。でもなんていうか、それがルールっていうか…新人はとりあえず1回はやらないといけない、みたいな?」 「へえー変なのー。芸能事務所みたい」 「うん、ホントそんな感じ」 「…嫌じゃなかった?」 「うん、まあ、そんなには」 「やっぱ冬樹って、根っからのゲイなんだなー」 「そーいうお前は、どうだった?嫌だったの?」 「…嫌だったよ…ものすごく、嫌だった…」 「そうかあ…」 冬樹が、僕の肩に手を回した。 「俺とも…嫌かなぁ…」 「…」 僕はドキドキしてきた。 でも不思議と、今までのヤツらのときとは、全く違うドキドキだった。 「…わかんない。やってみないと…」 「やってみていい?」 「…うん…」 冬樹はじっと、僕の目を見つめた。 そしてそっと口付けた。 彼は、じっくり味わうように、僕のくちびるを吸ったり舐めたり、舌を入れてきたりした。 その感触が心地よくて…僕は、それだけで身体が熱くなっていくのを感じた。 そっとくちびるを離すと、冬樹は横のベッドに僕を押し倒した。 僕の上に重くのしかかりながら、再び僕に口付けた。 僕のくちびるを弄びながら、手を滑らせ、僕のシャツのボタンを外した。 彼の手が、僕の胸を弄り乳首に触れた。 僕の身体はビクッと震えた。 「あっ…」 冬樹のくちびるが、僕の首すじへ…そして肩へ下りていった。やがて、もう片方の乳首にたどり着き、舌で転がすように愛撫を始めた。 「ん…あ、ああ…」 僕の身体は敏感に反応し、だんだん息が激しくなっていった。 「かわいいな、郁…」 彼はゆっくり愛撫を続けながら、僕のズボンを脱がせ、自分も服を全て脱ぎ捨てた。 「やっぱりちょっと悔しいな…他のヤツにも触られたってのは…」 そう言いながら冬樹は、僕をしっかり抱きしめた。 僕も力強く、冬樹に抱きついた。 彼の身体の温かさと、僕のモノに擦れ合う彼のモノの熱さが、僕の身体をより一層、熱く燃え上がらせていった。 冬樹はゆっくり頭を下げて、僕のモノを舌で舐めた。 「あっ…」 彼は、右手で僕の乳首を転がしながら、口で…舌で、滑らかな愛撫を続けた。 「ああ…はっ…ああ…」 あまりの気持ち良さに、僕は目を閉じ、声を上げながらイってしまった… 「はぁ…あっ…」 余韻に震える僕の、身体を優しく拭いてから… 冬樹は僕をうつ伏せに寝かせ直した。 ゆっくり何度も背中に口付けしながら、後ろから両手で、もう一度僕のモノを握りしめた。 僕のモノは、再び硬くなっていた。 そして彼はゆっくり…僕の中へ、挿れてきた… 「あっ…」 刺すような痛みが走った。 「痛い?」 「う…うん、…でも、やめないで…」 「大丈夫かな…」 冬樹は、ゆっくり…ゆっくり少しずつ…やがて奥まで入ってきた。 「はあ…あ…」 「動いて、いい?」 「ん…」 痛みはなかなか和らなかったけれど…ふと… 彼の僕のモノを触れる動きに刺激され、痛みの奥から、今まで感じたことのない、不思議な快感が引き出されてきた… ゆっくり冬樹が、奥へ突けば突くほどに、その快感は大きくなり… 冬樹が僕の中で絶頂を向かえるとき、僕も同じように2度目の絶頂に達してしまった… 「はあ…はぁ…」 僕はぐったりとなった。 何とも言い難い脱力感だった… でもそれは、とても心地良い感覚だった… 「大丈夫だった?」 「うん…」 「すっげー気持ちよかった」 「…うん、僕も…なんでだろ?」 似たようなことをされたハズなのに…他のヤツらのときとは全然違ったのが、不思議だった。 「そりゃお前…『愛』があるからだよ」 「あははっ…よくそんなこっぱずかしいこと、言えるよね…ん…」 そう言いながら、冬樹はまた、僕にキスをした。 でも、そうかもしれない… 冬樹の言う通り…『愛』があるから、なのかも… その夜、冬樹の腕の中で… 僕はとても久しぶりに、安らかに眠った。

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