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2どめのなつやすみ(1)
僕らにとって、2度めの夏休みがやってきた。
夏休みの間、冬樹は上野でバイトをしていた。
アメ横の中にある果物屋で、1日中大声を張り上げて威勢よく果物を売るっていう、アメ横の代表格みたいなお店。
暑いし、野外だし、本当に大変そうだった。
でも、この時代に日給10000円のバイトなんて、他には、なかなか無いんじゃないかな。
冬樹は真面目に…『叩き売り』の仕事をしていた。
その日僕は、のんびり起きて…買い物がてら、上野に行った。
あちこちをブラブラしてから、冬樹の店に行った。
ちょうど店じまいをしているところだった。
「お疲れさま、冬樹!」
「あっ、おお…来たのか」
「もう、終わり?」
「うん、もーちょっと待ってて」
店の奥から、おじさんが声をかけてきた。
「お、倉田の友だち?うちでバイトしないか?」
「店長、ダメっすよ。こいつまだ中坊だから」
「構わん構わん、そんなのバレなきゃ大丈夫だって」
「えーーどうしようかな〜」
「ばーか、お前はバイトなんかしてる暇ねえだろ。勉強しろ勉強!」
「はははっ…倉田、親父くせえ」
「わかったよ、お父さん」
「誰がお前の親父かっ」
「あはははっ」
アメ横のおっちゃん、面白いな。
「お疲れ様でした。お先に〜」
片付けも終わって、僕らは駅に向かって歩き出した。
「面白いね、あのお店の人たち…」
「うん、アメ横の人たちは、みんな面白いよ」
「冬樹、こーいうの向いてるんじゃないの?」
「そーかもな。俺、このままアメ横のおっちゃんになろうかな…」
上野駅に着いて、そこから山手線に乗った。
そーいえば、イチバン最初に冬樹と出掛けたのも上野だったな…懐かしいな…
そんな事を考えながら、僕はドア側に立って、窓の外の鮮やかなネオンを見ていた。
と、ドアに映っていた、僕らの後ろに立っている…見覚えのある顔に気付いて、僕は思わず振り返った。
「了さとるさん!」
「あれっ…郁?」
それは、僕の親戚の(旅行大好きな)叔父の了さとるさん、だった。
「偶然だねー元気?」
「うん」
了さんは、僕の隣の冬樹に目を移した。
「あっ、これ、友達の…倉田冬樹。あ、こっちは僕の叔父さんの、了さん」
「あ、どーも」
2人はお互いに、少し笑いながら会釈した。
「そーだ、丁度よかった。今年の旅行どーするか聞きたかったんだ。なんかお前、あんまり家にいないって、実あにきが言ってたから」
「あ…うん。割と、この冬樹んちに行ってる」
「去年好評だったから、今年も式根島にしたんだ。どう?行かない?」
「…」
「倉田くん…だっけ?よかったら君も一緒に行こうよ」
「えっ?」
「あ…ほら…言わなかったっけ?うちの親戚とか友達とかで旅行行ったって話…」
僕は少し伏せ目がちに、小さな声で言った。
「…ああ」
「実 は行かないって言ってたけど、去年のメンバーはみんな行くって。道明も…茂樹も…」
ドクンっ…と、僕の中で何かが鳴った。
その名前が、一気に僕の身体を強ばらせた。
了さんは気付かず構わず続けた。
「…もちろん行くってさ。お前はどーする?」
僕は黙ってしまった…
冬樹はそんな僕の様子を見て、しばらく考えていたが…
「行こう」
「えええっ?」
「俺…行きたいなあー」
思いもよらない冬樹の言葉に、僕は愕然とした…
「よし、2人で一緒に参加でいいね」
「ぼ、僕は行かないっ」
思わず叫んだ。
「ははっそんなに今すぐに決めなくても大丈夫だよ。また連絡するからさ」
「あ、そしたら、うちの方に電話もらえます?郁、大概うちにいるんで…」
「あ、そう。じゃあ電話番号教えて」
僕をそっちのけで、2人は話を弾ませていた。
冬樹は一体どういうつもりなんだろう。
僕が行きたくないことは…茂樹に会いたくないことは、よく分かってくれてると思ったのに…
「じゃあねーまたね」
「はい。さようならー」
了さんは、手前の駅で降りた。
僕らは、池袋で降りるまで、じっと黙り込んでいた。
電車を降り、歩きながら、僕は切り出した。
「なんで?なんで、行こうなんて言ったの?」
「え?だって、行きたいじゃん。お前、去年、海がすごく綺麗だったって…言ってなかったっけ?」
「そりゃあ…そーだけど…」
「俺も、その綺麗〜な海が見たいもん」
「…」
僕は下を向いた。
「それに…」
冬樹は続けた。
「来るんだろ…?」
僕はビクッとして、冬樹を見上げた。
彼のこんなに怖い目を、久しぶりに見た…
「でも、冬樹…」
「大丈夫」
また急に、優しい目に戻った冬樹は…僕の肩をしっかり抱き寄せた。
僕はゆっくり…頷くしかなかった。
茂樹に会うのは死ぬほど嫌だった。
でも…あの美しい海を、冬樹と一緒に見れたなら…
あの出来事を、良い思い出に塗り替えることができるかもしれない。
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