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2どめのなつやすみ(2)

強引な冬樹の希望により、僕は今年も式根島ツアーに参加することになった。 僕らは夜の22時過ぎに、待合わせ場所に向かった。 先に着いていた了さんが、僕らを見つけた。 「おーい、郁ー」 「こんばんは」 「ああ、倉田くんも…」 「よろしくお願いします」 了さんは、冬樹を、道明とか友達とかに紹介した。 「おーい、茂樹ーこっちだ」 僕の中で、また何かが、ドクンっと鳴り始めた。 「久しぶりです」 「お前なんか痩せた?」 久しぶりのメンバーにひと通り挨拶をして、最後に茂樹は、僕の前に立った。 僕の中のドクドクが、どんどん大きくなってきた。 「郁…元気だった?」 何事もなかったかのように、茂樹は僕を見下ろして言った。 僕はゆっくり顔を上げた。 「…うん」 「そう。よかった」 確かに、去年と比べて、ひと回り小さくなった様な印象だった茂樹は、その視線を冬樹に移した。 「君は?」 冬樹はじっと、茂樹を見据えた。 しばらくの間2人は、黙ってお互いを見ていた。 「倉田冬樹っていいます。郁の友人です」 茂樹は、少し驚いた様子で…僕を見て、またもう一度、冬樹をじっと見た。 「へえー そーなの…」 そして、徐ろに冬樹に近づき…耳元で囁いた。 「どーいう関係なの?」 冬樹は顔色ひとつ変えずに答えた。 「そーいう関係ですが、何か?」 「くっくっくっ…」 茂樹は笑いながら、冬樹の横を離れた。 「みんな揃ったことだし、そろそろ行こうか…」 僕らの団体様は、了さんを先頭に、港まで歩き、客船に乗り込んだ。 そして、島へ向かう船は、静かに動き出した… 船内の電気が消え、もう皆んなが寝入ろうかとしているとき… まさかの茂樹が、僕の隣にやってきた。 「ねえ、甲板に行かない?」 僕はビックリして、冬樹を叩き起こした。 「なんなら、そちらさんも一緒に…」 「…」 茂樹は、ゆっくりと歩き出した。 冬樹がその後ろに…そしてそのまた後ろに、僕はついていった。 甲板はヒンヤリと涼しく、真っ暗な海に包まれていた。 人影の少ない場所まで行って…茂樹は立ち止まり、後ろを振り返った。 「お前…知ってるの?」 「何を?」 「くっくっくっ…分かってるくせに」 「知ってたら、どーなの?」 「俺は、全然諦めてないから」 「それで?」 「俺は、郁は、俺のものだと思ってる」 「は?」 「だって、俺が先に貰ったんだから」 「…郁に気持ちもないのに?」 「昨日まではそうかもしれないと思ってた。でも、こうして再会できたのは、やっぱり運命だと思うんだよねー」 勝ち誇った様な口調で、茂樹は語り続けた。 「郁が俺の所に来るのは、時間の問題…」 「僕は…あんたの為なんかに来たんじゃない!」 思わず僕は口を挟んで叫んだ。 茂樹は、僕の方を見た。 去年と違う。 それでも去年の茂樹は、までは、普通だった。 今年の、ひと回り痩せた感じの茂樹の目は、少し窪んでその分目玉がギョロっとして… 暗闇のせいも手伝って、なんだか、何かに取り憑かれている風にも見えた。 その目が、僕をじっと捉えた。 「愛してる…郁」 「戻ろう!冬樹!」 僕は冬樹の腕を掴んで、強引に引っ張った。 「あいつ…頭おかしいんじゃないの?」 「いいよ、もう。放っといて」 僕らは船室に戻った。 茂樹は、甲板でいつまでも… 真夜中の真っ黒い海を見つめていた。 怪しげな笑みを浮かべながら…

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