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2どめのなつやすみ(4)
その頃冬樹は、了さんが楽しんでいる、ホテルの浴場に来ていた。
「どーもー」
「あれっ倉田くんも来たの?」
「せっかく良い風呂があるんだから、入んないともったいないと思って」
「郁は?」
「そーいうのはいいって断られちゃいました」
「あはははっ…いや、嬉しいな。他のヤツら、誰も付き合ってくれないからな」
冬樹は親しげに、言葉を選びながら…
了さんに取り入っていった。
「あの、茂樹って人…ちょっと変わってますね」
「ん?ああ…あいつねー」
「学年も近いし、仲良くなれたらなーって思うんだけど、何が事情あるんですか?あの人…」
「うん…まあねー」
「あーやっぱそうか〜 いや俺も他人のこと言えないんですけどね、親、離婚してるし」
「そっか、倉田くんちも大変なんだ…」
了さんは、上手く冬樹に乗せられた様子で、次々と語り始めた。
「あいつの両親も、つい先日正式に別れたんだ。あいつは親父…ま、俺の兄貴なんだけどね…今親父と2人で暮らしてる」
「大変なんだな…」
「で、その別れた理由ってのがさあ…」
「ここだけの話…まだ郁にも言ってないんだけど…」
ああ、郁を連れて来なくて正解だった…
と、冬樹はそのときは思った。
「あいつ、今、高校行けてないんだよねー」
「…引きこもりですか?」
「そう、ちょうど去年の秋冬くらいからだったかな」
「…」
「その辺の詳しい理由は知らないけどね、まーもともとひとりっ子で甘やかされてたし、下手に勉強も出来たから…何かつまんない事で挫折しちゃったんじゃないかと、思うのよ」
「…」
「そんでまあ、どっちのせいだ…みたいな話になって、揉めた末に結局、母親の方が出て行くことになったらしい…」
「…」
「俺の兄貴…あ、茂樹の親父ね。あいつもちょっと性格に難ありだからな。むしろそれまでよく我慢できたとも思うわ」
「…」
「ま、だから…親父のせいで、茂樹もあんなになっちゃったんだろうと思うよ。子どもの時から、欲しい物は何でも手に入れないと気が済まないってところがあった」
「…何でも…ね」
「勉強できて、欲しい物は手に入って…順風満帆なヤツほど、挫折するとダメんなるんだよな」
「…で、折れちゃったんですかね」
「そんな感じなんだろうね。俺も久々に会ったんだけど…人相変わってたしなあ…」
「…そーなんですか…」
郁が欲しかったんだろうな
手に入らなかったことで、他も上手くいかなくなったのかもしれない。
「そんなヤツだけど…倉田くん、よかったら仲良くしてやってよ」
「…あ、はい」
「今回も、まさか参加してくれるとは、実は思ってなかったから、よかったわ…」
「…」
「去年と比べると、全然元気ないけどな…それか、何か違う目的でもあったんかな…なんていうか…」
「…」
「子どもの頃…他の子が持ってるおもちゃとか、狙ってるとき…あんな感じだったんだよな…」
「…」
「なんの話?ずいぶん楽しそうじゃん…」
急に背後から、誰かが声をかけてきた。
「…あっ 茂樹…」
「…!」
冬樹は驚いて振り向いた。
「倉田くんだっけ?ずいぶん余裕だけど大丈夫?」
「…なにい?」
茂樹は、若干の狂気じみた笑顔で続けた。
「了さん、誘ってくれてありがとう。おかげで目的を果たせました」
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