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2どめのなつやすみ(7)
最終日…
了さんとか、他のメンバーは、最後まで海水浴を楽しんだようだが…
僕ら2人は、そんな気持ちにはなれなかった。
帰りの船も夜行だった。
僕らは出港ギリギリの時間に、ホテルを出た。
団体様の中には、もちろん茂樹もいたので、
僕らは了さんに色々な理由をこじつけて、ずっと甲板で過ごすことにした。
夜の涼しい甲板の、人気のない場所を選んで、僕らは並んで座っていた。
どのくらい時間が経った頃か…
ひとりの人影が、僕らの方に静かに近づいてきた。
「…こんなところにいたの…随分探しちゃったよ」
茂樹だった。
「寒くない?…ねえ郁、俺と一緒においでよ」
冬樹がすくっと立ち上がって、僕の前を塞いだ。
「…倉田くん?君、邪魔だなあ…」
そう言いながら。茂樹は、冬樹の胸ぐらを掴んだ。
「邪魔なんだよね…どっか行ってくれない?」
そして冬樹の身体を、甲板の、手すりに押し付けた。
僕も立ち上がって、茂樹の腕を掴もうとした。
「郁! 下がってろ!」
冬樹がとても強い口調で言った。
…僕はおとなしく、後ろに下がった。
「倉田くん、カッコいいね。でも、郁はあげない。」
そう言って茂樹は、冬樹の首に、手をかけた。
「…!」
堪らず近寄ろうとする僕に向かって、冬樹は無言で手を払った。
「邪魔だから…死んで欲しい」
茂樹の手に、力が篭った。
「俺にはもう、なんにも怖い物なんかないんだ。なんなら、郁を殺すことも考えたんだけどね」
「…でも郁のことは…もうちょっと生きてるうちに可愛がりたいから」
「やっぱり邪魔なお前に死んでもらうと、思って…」
ヤバい、こいつ本気だ。
本気で冬樹のこと殺そうとしてる…
茂樹は、そのまま冬樹の首を絞め続けた。
「…ぅあっ…」
流石に冬樹が、反撃に出た。
茂樹の両手を無理やり自分の首から引き剥がし、突き飛ばした。
しかし茂樹はすぐに起き上がって、冬樹に突進して、掴みかかった。
「ぅおおおっ…」
そのまま、強引に…手すりに向かって勢いよく冬樹を押しつけた。
落とす気か…
茂樹は渾身の力で冬樹を押し続けた。
「…くっ…」
冬樹も渾身の力で踏ん張り、いったんは押し返したが、茂樹の狂気的な力によって、また手すりに押し戻された。
「…堕ちろっ」
茂樹が更に力を込めて、冬樹の顔に掴みかかろうとしたとき、冬樹がスッと身を翻した。
と、次の瞬間…茂樹がバランスを崩した。
「…!」
そして、渾身の…勢い余って…
そのまま茂樹の身体は、手すりを乗り越えしまった…
「あっ…!!」
客船の進む、鈍い低音に紛れて…
バシャーンという…人が海に飛び込む音が、
僕らの耳に、届いた…
「…はぁ…はぁ…」
息を荒げた冬樹は、最初は何が起こったのか、理解できない表情だった。
僕はハッと思って、手すりに駆け寄り、海面を見渡したが…
もともと真っ暗闇の中…
当然、何も見つけることはできなかった。
状況を飲み込んできた冬樹は…ドサっと、その場に座り込んだ。
「冬樹っ…」
僕は彼に駆け寄った。
「…ははっ ヤバいな、俺…」
「…冬樹は悪くないよっ」
下を向く彼に向かって、僕は続けた。
「だって、あいつの方が冬樹を殺そうとしてきたんじゃん」
「…そーだけど…」
冬樹は静かに、立ち上がりながら言った。
「最後は、俺の方が、殺してやるって、思ってた…」
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