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2どめのなつやすみ(8)
朝になって、船が港に着いた。
僕らは団体には戻らず、誰よりも先に船から降りた。
これからどうするのか…?
僕らは夜中のうちに、既に答えを出していた。
そのまま僕らは、池袋の家には戻らなかった。
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
「…どーするか…」
頭を抱える冬樹に向かって、僕は言った。
「逃げる?」
「…いや…」
冬樹は首を振った。
確かに…元水泳部の茂樹のことだから、まだ生きてるかもしれない。
今すぐに通報すれば、彼は助かるかもしれない。
でも、そうでなかったら…
冬樹はどうなってしまうんだろう?
僕は…冬樹が…
例えば捕まったとして…
単純に『冬樹が僕の側からいなくなる』ことが、耐えられなかったのだ。
「逃げよう、冬樹…一緒に行こう!」
「…」
「冬樹と…冬樹と離れたくないっ…」
「…」
戸惑う冬樹に、僕は泣いて縋りついた。
「お願い、冬樹…」
「…わかった。逃げよう」
◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
僕らは、だいぶ長い時間、知らない電車に乗って…
冬樹が、以前住んでいたという、海に近い駅に、僕らは降り立った。
駅からどのくらい歩いただろうか、とある小さなアパートの1室の前で、冬樹は立ち止まり、ブザーを押した。
しばらくして出てきたのは、冬樹よりだいぶ年上の男性だった。彼は冬樹の顔を見ると、驚いて言った。
「…!倉田じゃん!どーしたの、急に…」
「…突然ですいません。ちょっとお願いしたいことがあって…」
彼は僕の方を見た
僕は、深々と頭を下げた。
「ま、とりあえず入ってよ。話はゆっくり聞くわ」
冬樹が訪ねたこの人は、由川さんといって、冬樹が昔、この辺で悪さをしていた頃の大先輩らしい。
当時も何かと冬樹の面倒を見てくれていたらしい。
また、彼の仕事も冬樹は手伝っていたらしく、まあ言ってみれば、家族よりもよっぽど親しい間柄だったらしい。
冬樹は、これまでの経緯を、彼に話した。
「わかった。とりあえず、ここの2階が空いてるから、そこを使ってくれていいよ」
「…ありがとうございます」
「不動産屋の方は、俺が適当にやっておく。ただし、家賃は貰うよ」
「もちろんです!」
「それともうひとつ…」
「…」
由川さんは、真剣な顔で続けた。
「…もしものときは…悪いが、庇えないよ」
僕らは…黙って頷いた。
あとになって思えば、このとき冬樹は、ただ…
ただ、僕の気持ちを尊重してくれたんだと思う。
僕らは選んでしまった…
ここで僕らは、2人だけの生活を、静かに始めた。
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