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ぼくらのそれぞれ(1)
僕らが2人きりの生活を始めて、もう3ヶ月くらいは経っただろうか。
幸い、誰に咎められることも、見つかることもなく、静かに日々が過ぎていた。
冬樹は、昼間は宅急便の集配所で働き、週に何日かは、夜も駅の近くのスナックで働いていた。
僕も働きたいと言ったけど、まだ中学生だから…といって、冬樹は絶対に、僕にはバイトをさせてくれなかった。
だから僕は、冬樹を見送ったあと、1人で特に何もすることもない毎日を送っていた。
特にスナックのバイトのある日は、彼の帰りが夜の12時を過ぎてしまうので…
僕は、ずっと彼の帰りを待つ生活に、少し疲れてきてしまっていた。
そして、毎日働き詰めの冬樹の方も、それは同じだったと思う。
「じゃーいってきます」
「うん、今日は、早い日だよね?」
「…うん」
「気をつけて…」
「…ん…」
いつものように、軽くキスをして、彼を見送った。
その日はスナックのバイトが無い日だった。
僕は早くから、買い物を済ませ、夕食の準備をした。
もともと料理は嫌いじゃなかったし、特に他にすることもない僕は、割といろんな難しいメニューにも挑戦していた。
冬樹も、美味しいって言ってくれるし。
今日も早く帰って来る筈だから、頑張って作って待ってよう…
ピー、ピー、ピー
19時だった。
仕事は18時までだから、いつもなら、もう帰ってもいい時間だった。
テーブルには、既に料理が並んでいた。
「…」
「…冬樹くん」
「…ん? あれ、これから店?」
「そう」
仕事を終えて家に帰る途中で、冬樹は、バイト先のスナックでフロア係をやってる麻帆に会った。
「お疲れー 昼も夜も大変ね冬樹くん。ねえ、たまには遊びで飲みに来ない?」
「えっ…でも…」
「なあに?家で待ってる人でもいるの?」
「…うん、まあねー」
「そーなの〜 でもたまにはいいじゃん、ね、行こ」
「…んじゃ、ちょっとだけ…」
強引な彼女に引っ張られて、冬樹は自分のバイト先の店に行った。
「あれー?今日、冬樹休みじゃなかったっけ?」
マスターが声をかけた。
「へへっ 今日はね、あたしのお客なの。ねっ」
「う、うん」
「珍しいねー ま、ゆっくりしてって」
そして冬樹は、麻帆と並んでカウンターに座った。そして煙草に火をつけた。
「乾杯しましょ。今日はお金要らないからね」
「あ、ホント?ありがとう」
カチッ
軽くグラスを合わせて…冬樹は茶色い水割りを、一気に飲み干した。
疲れ切った身体に、アルコールが勢いよく染み渡っていった。彼はすぐに酔った。
ピー、ピー、ピー
もう22時を過ぎた。料理はとっくに冷めていた。
どうしたんだろう…
今日は早く帰るって言ってたのに…
僕はじっと…冬樹の帰りを待っていた。
「冬樹くんが彼女と同棲してるなんて、知らなかったなあー」
「…うん、まあ、彼女…じゃあないんだけどね」
「えー違うのー?」
「まー似たようなもんだけど…むしろ、彼女より大事かも…」
「…羨ましい〜あたしもそんな風に言われてみたい」
「…ははっ」
「でも…そんなに疲れるまで働いて…そうまでして守ってあげなきゃいけないものなの?」
「…うん。」
「なんだか…かわいそう…」
彼女は、冬樹の肩に手をかけた。
「あたしから見たら…あなたはまだまだ、いたいけな少年だもん」
「…あははっ…そう?」
冬樹はすっかり酔って…日頃の疲れもあってか、次第に眠くなっていた。
ピー、ピー、ピー
いくらなんでも遅過ぎる…
僕は、冬樹のズボンのポケットから、バイト先のスナックのライターも探し出し、それを握りしめて、家を飛び出した。
時計はもう、12時を回っていた。
「もう閉店するけど…どーすんの?その子…」
「ごめんね、マスター。大丈夫、あたしが最後閉めとくから」
冬樹はカウンターに突っ伏して、すっかり眠り込んでしまっていた。
「そう?じゃあ頼むね。俺は先に帰るね」
「了解、お疲れ様〜」
「…あんまり、悪戯すんなよ」
「はいはい…」
寝込んでしまった冬樹と、真帆を置いて、マスターは先に帰ってしまった。
閉店したその店には、2人きりになった。
「冬樹くん…」
彼女は、冬樹を揺り起こした。
「そんな所で寝たら風邪ひくから、ソファーに移って…ね」
「う…ん…」
冬樹は彼女に支えられながら、ゆっくりヨタヨタと、ソファーに移った。
「…冬樹くん」
彼女は、そっと冬樹に口付けた。
「…ん…?」
「かわいそう…たまには思い切り、甘えて…」
彼女はゆっくり、冬樹の服を脱がせた。そして、冬樹の手を取り、自分の胸に誘った。
「…ん…まほさ…ん」
「何も言わないで。いいから、大丈夫だから…」
冬樹は、酔って覚束ない手で、彼女の胸を弄った。
彼の手が、彼女の乳首に触れると…彼女は仰け反って喘いだ。
「あっ…ああ…ん」
彼女は自分から服を脱ぎ、露わになった乳房を、冬樹の顔に押し付けた。
冬樹は、それを反射的に両手で掴んで、先端を舌で転がした。
「あ…あ…」
仰け反りながら彼女は、胸を冬樹の顔に付けたまま、彼の右手を、自分の股間に運んだ。
冬樹は、されるがままに、濡れたそこを指でかき混ぜるように愛撫した。
「あ…もう…」
彼女は、冬樹の顔から胸を離すと、そのまま彼の上に馬乗りになり、彼のモノを掴んで、自分の中に、挿れた。
「あ…ああ…」
酔って朦朧とした冬樹は、快感に任せて、彼女を乗せたまま、腰を動かした。
そして、その動きに合わせて揺れる乳房を、指先で愛撫した。
「ああっ…あっ…」
「…はぁっ…あっ…」
他に誰もいない店中に、2人の喘ぎ声が響いた。
僕は、ライターに書いてあるアドレスを頼りに、その店を見つけた。
階段を上がり…ゆっくりその店のドアを開け…
カーテンの隙間から、店の中をそっと覗いた。
「…!…」
奥のソファーの上に、2人の男女が、裸で絡み合っていた。
その…女の身体を揺り動かしていたのは…
紛れもなく、冬樹…だったのだ…
やがて2人は、お互いに果て…ソファーに倒れ込んだ。
僕は…茫然として、思わず2〜3歩後ずさった。
ガタッ
彼女がふっと顔を上げた。
「…ん…なに…?」
冬樹が、ボーっとして訊いた。
彼女は急いで上着を着て言った。
「大丈夫。ここにいて」
僕は焦って、急いで外に出て…階段を駆け下りた。
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