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ぼくらのふゆやすみ(1)

季節は冬になった。 年の瀬を迎え、冬樹の休みに合わせて、僕も休みをもらった。 家でのんびり過ごしてから… たまには海でも見に行くかっていう話になり、僕らは久しぶりに2人で出掛けた。 電車でほどなく、海辺の駅に着いた。 夏場の海水浴のシーズンには及ばないが、 年末の休日とらいうこともあり、 割と人出が多かった。 「割と人いるねー」 「ははっ…みんな考えることは一緒なんだな」 と、そのとき、1人の若い男が、 たまたま冬樹とぶつかった。 「…いってえ…」 その声を聞いて冬樹は、 振り返ってその男を睨んだ。 茶色い頭の、ヤンキー風の男だった。 「なんだよ、てめえ。ぶつかっといて何か文句あんのか?」 その男は、冬樹にくってかかった。冬樹は何も言わなかった。 「なんとか言えよ、てめえ…」 その男は冬樹の胸ぐらを掴んだ。 「冬樹っ」 僕は思わず声をあげた。 …と、その相手の男の、表情が変わった。 「相変わらずこんなことしてんのか?」 冬樹は、ちょっとずつ、笑いながら言った。 その男は手を離し… 冬樹の顔をマジマジと見た。 「…倉田か?」 「久しぶり」 「…なんだ、倉田かあ…いやぁビックリした。ずいぶん変わったな、お前。元気か?」 「…ああ」 2人は懐かしそうに話しはじめた。 なーんだ、知ってる人だったんだ… 「こいつ、昔のダチで、相沢」 「あ…どうも」 相沢と呼ばれた彼は、僕の方を見て言った。 「あれ?男かぁ…彼女かと思ったわ」 しばらく2人は懐かしそうに、色々なことを喋っていた。そのうちに相沢が言い出した。 「そーだ、これから走るんだけど、よかったらお前も来ない?」 「あーでも、バイク無いし…」 「気にすんなって、俺の貸すよ。お前なら安心だからな…」 へえー そーなんだ。 そんな所でも信頼されてるんだ… 「そっか…どうする?郁…バイク、乗りたい?」 「…うん。乗ってみたい!」 「よし決まった。行こうぜ」 海岸沿いの広い駐車場に、たくさんのバイクと怪しげな連中が集まっている所へ、僕らは連れていかれた。 僕はこーいう場面は初めてだったので、ちょっとドキドキしていた。 「あれー?倉田じゃん!」 「ひっさしぶりー何してたの?」 冬樹のことを知ってる人が、たくさんいるみたいだった。 冬樹はすぐに、 その連中の中に溶け込んでいった。 しばらくすると、喋っていた人たちが、どんどんバイクに乗り込み… 大爆音を上げて、 次から次へと駐車場から出ていった。 「じゃ、倉田、これ乗ってけよ」 「うん、サンキュー」 相沢って人のバイクは真っ赤にペイントされていて、ステッカーがたくさん貼ってあった。  冬樹はそれに跨り、エンジンをかけた。 「すっごい音ー!」 「えっ…なに?」 会話にならないくらいの爆音だった。 僕もなんとか後ろの座席に跨り、冬樹のお腹に手を回した。 「しっかりつかまってろよ」 「う…うん…」 そして…更に大爆音を上げて、 バイクは走り出した! 「う…うわあぁ…」 道路に出ると、 冬樹はどんどんスピードを上げた。 もの凄い迫力だった… 海岸沿いの広い道路を、たくさんのバイクが走っていた。 テールランプが道なりにずっと続いていて…それがとても綺麗だった。 冬樹は、水を得た魚のようだった。 最初はちょっと怖かったけど… だんだん慣れてきて、僕も、 風を切って進むのが気持ちよくなってきた。 どのくらい走っただろう… そろそろ水平線が水色に変わってきた頃… 突然、僕らのバイクの行列に、パトカーが割り込んできた。 「ヤバいっ…」 パトカーを撒くために、バイクの群れは、次から次へと横道に入っていった。 僕らも、すぐそこの横道に入った。 ところが、運悪く…しばらく行った所に、もう1台、パトカーがとまっていた。 「止まれー」 僕らは止められた。 「ど、どうすんの?」 「なんとかする…合図したら、向こうへ走って」 「…うん…わかった…」 僕らはおとなしくバイクから降りた。 「免許証見せて」 1人の警官が、冬樹に職務質問を始めた。 そして…もう1人の警官が、 パトカーから降りて、僕の方に近づいてきた。 「…!!」 その警官の顔を見た途端に… 僕はすっかり、落ち着きを取り戻した。 「…警察の人だったんだ…」 僕は囁くように、言った。 「…!!」 その警官の顔色が、変わった。  彼は…紛れもなく、僕のお客さんになったことのある男…だったのだ! 「…君は…」 彼は狼狽え、もう1人の、冬樹に尋問している警官の方を見て…そして再び僕を見た。 「また会えて嬉しいです。だって、忘れようったって忘れられないですから…貴方の…」 そう言いながら僕は、冬樹に気付かれないように…その警官の股間に手を伸ばした。 彼は慌てて、僕の手を交わした。 「なんとか、見逃してもらえませんか?」 僕は、若干上から目線な感じで言った。 彼はしばらく黙っていたが…やがて、冬樹の方の警官を呼んだ。 「おい!ちょっと」 そのスキを見て、冬樹は僕に目で合図をし、打合せた方向へ向かって走り出した。 僕もすぐ後ろを追った。 「あっ…おい!待てー」 もう1人の警官が僕らを追おうとしたが…あの彼が、何とかしてくれたらしく、僕らは無事に逃げ果せた。 「はあ…はぁ…ヤバかったな…」 「はぁ…はぁ…うん…でもよかったね」 「バイク…置きっぱなしちゃったね、大丈夫?」  「ん?ああ、大丈夫だろ?なんたって相沢の親父も警察官だから」 あーそうなんですか… 僕の中の警察官のイメージが、 どんどん崩れていった…

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