37 / 149
ぼくらのふゆやすみ(2)
僕らは、近くの駅から始発の電車で帰った。
その途中で、冬樹が切り出した。
「なあ…郁」
「ん…なに?」
「お前…そろそろバイト辞めれば?」
「…えっ なんで?」
「高校…受験…」
「えええー? なんで〜?」
「いや、やっぱ高校行っといた方がいいよ」
「なんでー?いいよー今更…」
そして冬樹は、お父さんのように続けた。
「いや、ダメだ。いいか、世の中学歴社会だからな。大学出てるヤツだっていっぱいいるんだから…その中で生きていくためには、せめて高校は行っとかないと」
「じゃあ…冬樹は?」
「俺は…今はいけない。それはお前がイチバンよく知ってるだろ?」
「…」
「だから、俺のためにも行って欲しい…将来俺を養ってもらうためにも」
「ふふっ……でも…」
「とりあえず、俺が教えられる事は教える。だからもうバイトは辞めて、勉強に専念して欲しい」
まさか冬樹がそんな事を言い出すとは、思いもよらなかった。
でも確かに…
冬樹の言うことは最もだと思ったし…
僕自身も、高校…そりゃあ行けることなら行きたいと思っていたので…
彼の言う通りにしようと、心に決めた。
「…うん。わかったよ…」
それに、いつまでもこんな生活続けてちゃいけない。
「でさ、お前のその会社の社長…信用できそうな人なんだろ?」
「…うん」
「その人に、いろいろ頼めないかな…」
「…何を?」
「いや、ホントにいろいろ…普通は高校受験ったら、中学校から色々書類とか用意しないといかんからね」
「へーそうなんだ…」
「うん、そればっかりは、俺もお前もどうにもできないからさ…でも、その社長だったら、そーいうの無しで受けられる学校とか、心当たりあるんじゃなかろうかと、思って…」
「…わかった…訊いてみる」
そういったわけで…
僕は休みが終わってすぐに、
結城に直接会って、事情を話してみた。
結城はまさかの、とても快く引き受けてくれた。
「そうか…冬樹くんは流石だな…」
「ホントにすいません…ご迷惑をおかけします…」
「いや、全然、いいんだ。っていうか、実は冬樹くんに言われなくても、私がそうしようかと思っていた」
「えっ?」
「うちの系列に学校法人があるから、そこ、どうかなって、お前に勧めようと思ってたんだ」
「…そう…なんですね」
なんでそんなに、この人、僕のこと気にかけてくれるんだろう…
「何も気にしないで大丈夫。仕事も入れない。だから安心して勉強しなさい」
「…ありがとうございます…」
僕は、深々と頭を下げた。
結城は僕の頭を撫でた。
「でも、私は…君のことも大事だが、万一の場合には、2人を庇うことはできない。それだけは頭に入れておいて欲しい」
「…はい。わかってます」
結城は、優しそうな…
少し心配そうな目で、僕を見つめた。
「じや、後は任せて、頑張って」
「はい…ありがとうございます。失礼します」
なんでそんなに? は置いといても…
こんなにありがたいことはない。
結城さん、無事高校生になったら、もっといっぱい仕事するからね!
そんなことも考えながら…
僕は、勉強に励む日々を送り始めた。
結城が、その学校の過去問題集を揃えてくれた。
僕はそれを解き、わからない部分は、夜、冬樹に教えてもらった。
冬樹は思ってたより、ずーっと頭が良かった!
教え方も、上手だった。
書類や手続きなど面倒なことは、
全て結城が上手くやってくれたらしい。
受験票だけが、僕の元に送られてきた。
そして僕らは…
いろいろな意味での、
運命の日を迎えるのだった…
ともだちにシェアしよう!