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ふゆきのひみつ
「今日は来てくれてありがとう」
「いや、こちらこそ、ホントにありがとうございます。」
オフィスの結城の部屋、
社長室長室の中にある、小さな応接コーナーで
なんと…
結城と冬樹が、向かい合って座っていた。
「とりあえず、何から話せばいいかな」
「できれば、結城さんご自身のことを、教えて頂きたいのですが…」
結城は、自分の会社のこと、
自分の仕事のこと…また自分がどういう経緯で今の立場にいるか、簡単に説明した。
「凄いなぁ…ホントに色々やってるんですね」
ひと通り話し終わると、
結城はストレートに訊いた。
「ちなみに…郁とのことは知ってるのか?」
「…薄々はね。気付いてました。」
「仕事のことも?」
「…薄々ですけどね」
「私のことが憎らしくはないのか?」
冬樹はいったん…軽く深呼吸をした。
「…そりやあ、あいつが他の男としてるってのは、俺としては良い気持ちはしませんよ。まあ、俺も…他人のこと言えない事もありましたけど…」
そして、下向き加減で…噛みしめるように、続けた。
「でも、そこじゃない。どーいう形であれ、俺は、あいつが前を向いてってくれればそれでいいんです」
「…大人なんだな、君は…」
冷静なセリフとは裏腹に、結城の表情は少し複雑だった。
なんていうか、勝負に負けた子どもが、
悔しいのを必死に隠しているような…
でもそれは、下を向いて喋っていた冬樹には、残念ながら伝わらなかった。
それから冬樹は顔を上げて訊いた。
「ちなみに、俺のことは…喋った方がいいですか?」
「…あ、いや。すまないが調べさせてもらった」
「くっくっ…ですよねー」
「意外な繋がりがあったよ。君、倉田真紀さんの息子さんなんだね」
「えっ おふくろ知ってるんですか?」
「…うちの社長が、彼女のお店の常連だったんだ。私も何度もお供してね。確かに息子さんの話をしていたことがあった…」
「あはは、そうなんですか〜」
冬樹の母親は、銀座の高級クラブに、長いこと勤めていたのだった。
「再婚したグレイさんも知ってる。彼の会社とも取引させてもらってる」
「へええ…ホントに顔広いですね〜」
それから…
冬樹は、また少し俯き加減になって、言った。
「…もちろん、『あのこと』も知ってるんですよね?」
「…」
結城は少し間を置いて…
「残念ながら、死体は上がっていないらしい」
「…!!」
その言葉に冬樹は、
ドキッとして目を見開いた。
唐突に改めて、
現実を突きつけられたような気がした…
「日本の警察はすごいな、甲板に争った形跡がある所までは分かったらしい。ただ、まだあくまで行方不明扱いだから、なかなか捜査が進まないらしい」
「…」
「もちろん重要参考人として、失踪した君たちの名前が挙がっている…」
「…そうなんですね…」
「…君がもし望むなら、事故ってことで片付けることも出来なくはないと思うが」
「…いいえ」
冬樹はキッパリ首を振った。
「できれば俺は、真実を明かしたい」
「…」
「あのとき、逃げるべきじゃなかったのは、よく分かってるんです…」
冬樹は頭を抱えて…下を向いた。
「ただ…あのときは、どうしても郁をひとりで放り出すことができなかった…あのときのあいつは、俺がいなかったらホントに生きていけなかった…」
そしてゆっくり顔を上げ…
結城の目を、真っ直ぐに見つめた。
「俺は、結城さんみたいな人が現れるのを、待っていたのかもしれません」
「…」
「結城さん…あなたに郁を託したいんです。」
「…君は、大丈夫なのか?あいつと離れても」
「…全然、大丈夫じゃないですけどね…でも、今のままじゃダメじゃないですか…俺も、あいつも…」
冬樹は両手で顔を覆った。
「俺は…真相を明かして、あすこからいったんやり直さないといけない。郁は…あいつはあいつで、俺と離れて、ちゃんと自分でやってかなきゃいけない…」
冬樹の声は少し震えていた…
「でもね、あいつ…なんだかんだで俺がいないとダメだと思うんですよ…だから、そこんところを…あなたが助けてやって欲しいんです」
もしかしたら、
冬樹は少し泣いていたかもしれない…
そんな彼の様子を見て、結城は応えた。
「君に言われるまでもなく、私自身もそのように出来たら、と考えていた」
そして立ち上がって、冬樹の側に行き…
彼の肩に手を置いた。
「ありがとう。君にそう言ってもらえて私は本当に嬉しい。郁のことは、何も心配しないで大丈夫だよ」
結城は、冬樹の顔を覗き込んで、続けた。
「…君のこともね」
冬樹は顔を上げ、結城の目を見つめた。
「ありがとう…ございます…お願いします…」
ちなみに僕は…
裏でこんな密談が行われていたことなど、
これっぽっちも知らなかった。
知らないまま…結城の言われるがままに…
これからの僕の時間を
生きていくことになるのだ
いやむしろ…
冬樹の思惑のまま…と言ったらいいのか…
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