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ぼくらのすすむさき(2)

次の日の朝… 僕が目を覚ましたとき、 冬樹は既に起きて、身支度を整えていた。 「…ん?…冬樹、今日は早いね…」 「…お前も、一応支度しといた方がいいかもな 「…?」 見回すと… 心なしか、部屋も片付いているように見えた。 「なに?…今日なんかあるの?」 僕は、ぼや〜っとしながら、服を着ながら尋ねる… と、冬樹がまた…僕をギューっと抱きしめた。 「郁…」 「…なに、冬樹? どーしたの?変だよ、昨日から」 と… ピンポーン 呼び鈴がなった。 こんな朝っぱらから、誰だろう? 冬樹は口惜しそうに…でも、 何かを決意したような表情で、 僕から離れて玄関に向かい… そして、鍵を回し、ドアを開けた。 「倉田冬樹くん?」 「…はい」 「君に、出頭要請が出てる」 ドアの外には、警察手帳を掲げた、2人の刑事が立っていた。 「…はい…」 えっ?  何が起こってるのか、僕はすぐには理解できなかった。 バタバタッと、その2人が中に入ってきたかと思うと、そのまま、そのうちの1人が振り返る間もなく冬樹を連れて行ってしまったのだ…!! もう1人の刑事が近寄ってきた。 「滝崎郁くんだね」 僕は茫然と立ちすくんでいた… 「君にも出頭要請が出てる。一緒に来てもらうよ」 穏やかな口調とは裏腹に、とても強い力で、 僕は返事をする間もなく強引に連れ出された。 外に出てみると、冬樹を乗せた車が、 もう既に発進してしまっていて… 僕も、もう1台の車に乗せられ… そのまま警察署に連れて行かれた。 それは本当に…あっという間の出来事だった… 気付いたときには、僕は取調室で、何やらいろいろと質問を浴びせられていた。 でも、それらの言葉は、僕の耳には1つも入ってこなかった… あまりに突然、冬樹と引き離されたことへの、悲しさとも寂しさともつかない衝撃が… 僕に降りかかってくる全てのモノを遮断してしまっていたのだ。 余りにも僕が何も喋らないので、 諦められたのか… もしくは、冬樹が詳細を明かしたことで、 僕の拘束が解けたのか… 担当の刑事は、僕をその部屋から連れ出した。 警察署のロビーに、僕の身元引受人を名乗る人物が待っていた。 結城だった… 「なんにも喋ってもらえなかったよ」 「そうか…」 「まーショックがデカかったんだろうね」 「…それだけ、あいつにとっての倉田冬樹って存在が大きいってことだ」 「結城さん?あんたが代わりになれるのかね?」 「…まあ、やってみるさ…」 そして結城は、ゆっくり僕に近づいてきて、 僕の肩を抱いた。 「さあ、帰ろう…」 僕は虚ろな目つきで、 なすがままに結城の車に乗った。 車は高速に乗り…都内へ入り…やがて 都心に近い、結城のマンションに着いた。 駐車場に車を停め、彼は僕を自分の住む部屋へ連れていった。 部屋に入ると、 結城は僕をソファーに座らせた。 上着を脱ぎ、カウンターの中からウイスキーを取りだしてグラスに注ぎ… 彼は僕の隣に座った。 「…飲むか?」 僕は何も答えなかった。 僕には何も聞こえなかった。 いきなり結城が、僕の頬を思い切り、殴った。 「…っ」 僕はソファーに倒れ込んだ。 と、彼は僕の上にのし掛かり、 僕のシャツを左右に引きちぎった。 「…やっ…」 僕は、思い切り抵抗した。 結城は、部屋の電気を消して… 再び僕の上に馬乗りになった。 「いやだっ…離して…いやあっ…」 彼は容赦なく、僕の身体を愛撫し始めた。 「…あっ…ああ…いやだ…」 結城の長い髪が…僕の身体に触れた。 僕は思わず、呟いた。 「あ…ふゆ…き…」 その長い髪の感触は、 まさに冬樹にとても似ていた。 「冬樹だ…俺が…」 「…違うっ…んん…」 「違わないだろ?」 言いながら、彼は優しく愛撫を続けた。 「…あっ…あああ…」 全然違う。冬樹なんかじゃない… 身体を包み込む感触の全てが… 冬樹のそれとは違っていた。 ただ、髪の感触だけが…まるで冬樹にされているような錯覚を起こさせた。 そのまま僕は、半ば強引に結城に挿れられ… 彼の超絶な愛撫の手によって果てた… 僕の中で、脈を打つ結城のモノは… それでもやはり冬樹のそれとは全然違っていた。 「…冬樹は?」 「…」 「冬樹はどーなっちゃうの??」 僕は俄かに正気を取り戻した。 「郁…」 結城は、ちょっとホッとしたような優しい眼差しで、僕を見下ろした。 「冬樹はね。自分の過ちに、自分でカタをつけに行ったんだ」 「…」 「芯の強い人だね、彼は…」 頭がグルグルして、僕はなかなか結城の言葉を理解することができなかった… 「お前も強くならないとな…」 その言葉は…確かに僕に届いた。 そしてそれは… もう、冬樹が側にいないという現実を、 僕の心に思い知らせた… そうか…冬樹は捕まったんだ… 茂樹を海に落とした罪で… 「…う…ううっ…」 涙が溢れた。 僕は、声を上げて泣いた。 どうにも、涙が止まらなかった… そんな僕を、 結城は黙って抱きしめ続けてくれた…

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