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ぼくらのすすむさき(3)
それからしばらく過ぎたある日、
結城は僕を、冬樹が収容されている施設へ連れて行ってくれた。
狭い暗い面会室の…アクリル板の向こうに、
監視員に連れられて、冬樹が入ってきた。
長い髪を後ろで縛り、見慣れない青いシャツを着た冬樹は、少し痩せたように見えた。
彼はじっと僕を見つめ、
安心したように微笑んだ。
「…元気そうだね」
「…」
僕は、堪らない気持ちで彼の目を見つめ…
アクリル板の隙間にそっと手を出した。
冬樹はゆっくり…僕の指先を握った。
そのまま僕らは、何も喋らず…
ただずっと、お互いの目を見つめ合った…
静かに、穏やかに、時間が過ぎていった。
「そろそろ時間です」
監視員が事務的な口調で言った。
冬樹がゆっくり…手を離した。
「…またな、元気で…」
「…冬樹もね…」
冬樹は立ち上がり、監視員と共に部屋を出て行こうとした。
ドアの直前で、
彼は振り返り、結城を見つめた。
そして、深々と頭を下げた。
それを最後に…
冬樹の姿は、ドアの向こうに消えた。
黙って冬樹が消えたドアを見つめる僕の肩を、結城がそっと叩いた。
僕はゆっくり…
結城に振り向き、小さく頷いた。
彼は僕の肩を、ぎゅっと抱きしめた。
帰りの車の中で、結城が僕に言ってきた。
「何も喋らなくてよかったのか?」
「…うん」
「もしかして…超能力テレパシーで交信してたとか」
「うん。そーだよ」
「あはははっ…本当に?」
本当に…確かに冬樹は何も喋らなかったけど…
冬樹が僕に言いたいことは、しっかり伝わったような…気がしていた。
冬樹のためにも…僕は強くならなければ。
「冬樹は私にも超能力テレパシーで話してくれた」
「え?」
「最後に、私にお辞儀してただろ?」
「えっ?なんて言ってた?」
「郁の世話を頼むって」
「ええー?なんで〜?」
「くっくっくっ…」
一緒にいる時間が増えるうちに、
結城さんは、たびたび素の表情を見せてくれるようになった。
彼の優しさが、僕の心に浸みた。
静かで快適なBMWを運転する結城の横顔をじっと見ながら…
本当に…ホントに冬樹がそう思うなら…
僕はこの人の世話になろう。
この人の世話になって、自分をしっかり生きていこうと、心に決めた。
今から思えば、冬樹は分かっていたのだ…
あれが最後の日だってことを。
もしかしたら冬樹は、
僕の嘘も見抜いていたのかもしれない…
それでも、そんな僕をも、
受け入れてくれていたのかもしれない…
冬樹は本当に…
あの海のように、大きい人だから…
それから僕は、もう二度と冬樹に会いに行くことは無かった。
ただ結城から、しばらく少年院に入るかもしれないことは聞いていた。
4月から僕は、結城の世話で…
都下の外れの山奥にある、全寮制のミッション系の学園に入学することが決まった。
知らない環境で…
僕は新たな生活を始めることになった。
そんなふうに…
冬樹と離れて、歩き出した僕の先には…
実は…更なる魔窟が待ち受けているのだった。
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