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ここはラコンブラード学院ですか…?(1)

僕が入った全寮制の学院は、 都内とはいえども、本当に県境すれすれの山の中に…校舎と宿舎が、高い壁に囲まれた敷地内に、並んで建っていた。 すぐ近くに中等部もあるらしく、高等部のほとんどが、持ち上がりの生徒だった。 宿舎は2人部屋で… 僕は、中等部上がりの、同じクラスの畑中雅己ってやつと同室になった。 「今日は班のミーティングがあるんだよ」 「…なにそれ…」 入学式的なセレモニーも済んで、最初の火曜日の放課後に、雅己が言った。 クラスとは別に、寮の部屋単位の班があるのだ。 1年生から3年生まで…6部屋12人で1つの班とされていた。 班長の3年生の部屋に、僕らは集まった。 「それでは、ミーティングを始めます。僕はこの班の班長…3年の長田です。まずは自己紹介からお願いします」 順番にひとりひとり、自己紹介をしていった。 みんな中等部から上がってきた人ばっかりで、高等部から入ったのは、僕だけだった。 それから、寮の規則、今後の日程などを話しての…20分くらいでミーティングは終了した。 「失礼します」 「あ、滝崎くん…ちょっと…」 その部屋を出ようとした僕を、班長の長田が呼び止めた。 「金曜の夜に、僕が所属してる『文学研究会』の会合が、あるんだけど…よかったら来てもらえないかな」 「は? …あ、いえ…僕、文学とか、あまり興味ないんで…スイマセン」 僕は、内心…何言ってんだこいつ…と思いながら、やんわりスッパリお断りした。 「そこは大丈夫だから。とりあえず1回、来てみてもらえないかな?…それで嫌だったら、すぐ断ってくれていいから」 「…はあ…」 しつこいなーと思いながら、僕は渋々承諾した。 「じゃ、金曜、迎えに行くから、よろしくね」 「…はい…」 なんだかよく分からないけど、とりあえず僕は頷いておいた。 部屋に戻ると、雅己が心配そうな顔で言った。 「やっぱり…誘われちゃった?」 「うん…文学研究会だって。なんだろう?」 「文学…ってのはほぼ建前で、実はあすこは…別名『同性愛研究会』って言われてるんだよね…」 「えええ〜? そーなの?」 「僕も誘われたことあるよ。でも僕は全然、ノーマルだから、諦めて帰してもらえたけどね」 「…」 「郁は?大丈夫そう?」 「…うーん…」 あんまり大丈夫じゃないかもなー 「この学校、多いんだよねー男子校の上、全寮制でしょ。でも別に大して問題は起こらないし、むしろそれでも勉強できるヤツが多いから、先生も何も言わないんだ」 「あ、そーいえば、休み時間に教室に訪ねてくる先輩が、いっぱいいたなー」 「そうそう!あれ、ほとんどそうなんだよ」 「へえー」 結城さん…それ、知ってましたよね? 確か「たぶんお前なら大丈夫」的なこと言ってましたよね? それってそーいうことだったんですか… そして、約束の金曜の夜がきた。 コンコン… 「あ…こんばんは…」 「やあ、滝崎くん。迎えに来た…行こう」 「…はい…」 僕は、長田の後ろについていった。 長い廊下を通り抜け、色々なクラブの部室が並んでいるゾーンのいちばん奥に 『文学研究会』と書かれた部屋があった。 長田は、僕をその部屋に招き入れた。 「…」 薄暗い、でも割と広い部屋の中に… ざっと、20人近くはいるだろうか。 椅子に座り、本を読む者… 並んで座り、語り合う2人… 絨毯張りの床の隅の方に、ぴったりくっついて座ってイチャイチャしている2人なんかもいた。 部屋の奥の方のソファーに、会長らしき人物が座っていた。 隣には、まだ中学生と思われる男の子が、 その人物に寄り掛かるように座り… 背後に背の高いヤツが立っていて… もう、なんというか… 漫画に出てきそうな画だった。 僕は、その会長の前に連れて行かれた。 「うちの班の新入生…滝崎郁かおるです」 「…」 「こちらが会長の藤森さん。生徒会長もやってる」 生徒会長?  生徒会長自らこんなんなんですか… 「はじめまして、郁くん。ようこそ文学研究会へ…」 「…はい」 「唐突な質問でごめんね。君、同性愛に興味ある?」 「…えっ」 僕は内心…ちょっと可笑しくなってきた。 なんかそんな漫画みたいな台詞をホントに言う人、いるんだ。 「…いえ、別に…」 興味も何も…いまさら。 「そうか…残念。どうかな、この機会にその手の文学に触れてみる気はない?」 「うーん、今のところ大丈夫です」 「…残念だなあ…」 ふと気付くと…部屋中に散らばるメンバー達の目が、僕に向けられていた。 僕は無意識に、肩をすくめた。 藤森は立ち上がり…僕に近づいてきた。 「…綺麗な顔してるね。噂通りだ…」 えええ、どんな噂が流れてるんですかっ 「どうかな…是非とも君に、この会に入会してもらいたいんだけどな…」 そう言いながら、 藤森は僕の顎を掴んで顔を持ち上げた。 「可愛いね…君には素質があると思うよ」 僕は…なんだか こんな小芝居地味たやりとりが、 バカバカしくなってきてしまった。 ここは、どう立ち回るのが良いのか… いやここは…むしろ、 どういうキャラでいくのが、この人たちにとって、いちばん楽しんでもらえるのか… そんなことを無意識に、僕は考えてしまった。 「…」 そして僕は、その藤森の手を、バシッと跳ね除けた。 「…おい、お前っ」 横で見ていた長田が、僕を押さえつけた。 「会長に向かって何するんだ!」 僕は、藤森を… 若干嘲るかのような目で見つめた。 彼の表情は、 少し引き攣っているように見えた。 「バカバカしい…付き合ってらんねーよ」 見下すように言い放って、 長田の手も振り解いて… 僕はドアの方に向かって歩いた。 「待ちなさい!」 藤森が叫んだ。僕はゆっくり振り返った。 「くだらないなあ…こんなクラブ。あんた達、ちょっと頭おかしいんじゃないの?」 言い捨て、 僕はドアのノブに手をかけようとした。 と、藤森が無言でさっきから後ろに立っていた男に合図をした。 それに反応して、その男と、長田が… 走ってきて、両側から僕の腕を押さえつけた。 「何すんだよ…離せよっ」 2人の男は、僕をしっかり掴まえて… 藤森の前に突き出した。 「あんまり僕を怒らせないでくれないかな…」 藤森は、少し震えていた。 僕の態度…そんなに失礼でしたか… 彼はゆっくり僕に顔を近づけ…囁くように言った。 「君はまだ、この学院のことを、よく知らないみたいだね。ここに来た生徒は、みんな1度はここを通るんだ。でも、選ばれた生徒しか、ここには入れない」 「…それで?」 「…君は、変わってるね。是非、入会して欲しい」 「絶対…イヤです」 「仕方ない…身体に説得するしかないな…」 そう言いながら藤森はソファーに戻り、 僕を押さえている2人に、何か合図をした。 だいたい想定通りの『学院モノ』の流れですけど、大丈夫でしょうか…? 今のところ、お楽しみ頂けてるようですね〜

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