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もうひとつのなつやすみ(3)

何なんだ!? 何で俺、こんなにショック受けたんだ? 自分だってあいつにしてもらったのに… 分かってた筈なのに…何でだ? 律也は、自分の中に込み上げてくる、怒りやイライラの理由を、必死に考えた。 あいつが、弘真とやったから? 俺じゃない、他のヤツと? まさか、そんな… だって俺は… 自分の気持ちと自問自答しながら… 彼は一晩中ソファーに座り込んで、考え続けていた。 僕が自分の部屋についたのは、まだ12時より全然前だった。 雅巳を起こさないように… 僕はそっと、自分のベッドに潜り込んだ。 予想外に早く戻れてよかった。 明日は早起きして、勉強しなきゃ… そして僕は、目を瞑った。 そして思い返した… さっきの正田って人… ちょっと今までにないタイプだったな でも、あの物凄い手慣れた感が、気持ちよかったな… …すると、また、だんだんと… さっき正田に抱かれた時の感触が… 身体に蘇ってきてしまった。 「…」 正田の…指の感触…舌の感触… そして僕の中で脈打つモノの感触… それらを身体中に思い起こしながら… 僕は息を殺して、雅己に気付かれないように… また、自分の手でイった。 …僕ってば…ホントにもう! また再び、自己嫌悪の念が浮かんだが… でも言い訳が、すぐにそれを掻き消した。 大丈夫… 冬樹さえいれば、こんなの無くなるから そう自分に言い聞かせて… その晩、僕はぐっすり眠った。 目が覚めると、既に雅己は出て行ったあとだった。 机の上にメモがあった。  追試がんばってね。 (1週間後からの)よい夏休みを!              by雅巳 「ぷぷっ…雅己ってば…」 僕はそのメモを机の隅の方へずらしながら、どっかりと椅子に座った。 さあてー ホントに頑張んなきゃね そして僕は、教科書やらノートやらを引っ張り出して、追試に向けての勉強を始めた。 その日僕は… 思いのほか相当真面目に勉強したと思う。 やっとひと息ついたときには、もう、夕食の時間になっていた。 ふぅーだいたい終わった… あとは、前日にちょいちょい復習しよう 椅子から立ち上がって、僕は大きく伸びをした。 そして歩いて部屋を出て…食堂に向かった。 夏休みとはいうものの、追試のある者や、まだ自宅へ帰らない生徒たちで、食堂はそこそこ賑やかだった。 食事のトレーを運んで、僕は隅っこの空いている席に1人で座った。 お腹すいたーー 朝から何も食べてなかったもんな 「いただきまーす」 僕は1人でパクパク食べていた。 …と、隣の席に、知らない生徒がそっと座ってきた。 その生徒は、ポケットに手を突っ込みながら… 僕に話しかけてきた。 「滝崎って…お前だろ?」 「…そう…だけど…」 僕は食べる手を止め、その生徒の顔を見た。 これっぽっちも見覚えの無い顔だった。 「…あのさ」 そいつは、僕にすすっと肩を近づけ… テーブルの下に隠すようにして、ポケットから畳んだ1万円札を、僕の方に差し出した。 「今日このあと…時間ある?」 「…!…えっ!?」 僕はビックリした。 その1万円札を見て、思わず持ってたフォークを手から離した。 …と、その瞬間僕は、 食堂中の全ての生徒の視線が、僕に集中して向けられているような… そんな感覚を覚えた。 カシャーン… フォークが床に落ちたのと、僕が顔を上げるのと、ほとんど同時だった。 慌てて見回してみたが… 別に食堂の雰囲気は、何も変わっていなかった。 僕は、ホッと胸を撫で下ろし…冷静に戻った。 「悪いんだけど…」 落としたフォークを拾いながら… その1万円札を押し戻して、僕は続けた。 「追試がいっぱいあるんだ。1週間ずっと…だから悪いけどその間は勘弁してください」 「あ、そう。わかった」 その生徒はそれを聞くと、あっさり引き下がった。 シュッと席を立ち、さっさと食堂を出て行った。 ええー? 何それ、どーいうこと??? もしかして…あの正田ってヤツが吹聴してんのか? 背中にブルブルッと、悪寒が走った。 落ちたフォークを取り替えるのも忘れ、僕は急いで残りを食べ終えて、すぐに自分の部屋に戻り… 余計な事は考えないようにして… 明日の試験の復習だけして、さっさと眠た。 やがて…追試の日程が全て終了した。 その頃には、寮に残っている生徒の数もかなり少なくなっていた。 さいごの追試の結果が出たあと、学年主任による、成績ついての面談に、僕は呼ばれた。 「滝崎郁…」 「…はい」 「うーん、なんだ君はやれば出来るんじゃないか。何で前の試験はあんなにダメだったんだ?」 「あーたぶん、久しぶりだったからかと思います。あ、でも来期はなるべくちゃんと…やります」 「そうか…ちなみに君はいつまで帰るんだ?」 「8月の初めの予定です」 「じゃあ、まだしばらくは居るんだね」 そう言いながら先生は、 1枚の紙を、僕に渡した。 「…何ですか、これ…」 「夏休み中の補講の日程表。部屋でダラダラしてても退屈だろう?来期のためにも、折角だから出席しておいた方がいいぞ」 「ええー、やっと追試終わってのんびり出来ると思ったのにー」 「はっはっはっ…まあ別に、自由参加だから、無理にとは言わないさ」 「あ、そーなんですね」 「…でもきっと、暇を持て余して、補講でも行くか…って気持ちになるときが来ると思うよ」

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