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もうひとつのなつやすみ(4)

それから2〜3日、部屋でダラダラ過ごした僕は… 4日目にして、あの先生の予言通り…暇潰しに補講にでも行くかっていう気持ちに… 悔しいけれど、やっぱりなった。 はあーせっかくの夏休みなのになー でも、もう部屋にいても何にもすることないし… 出向いた補講の教室には、僕の他に4〜5人の生徒が来ていたが、皆、真面目そうなやつばかりだった。 あんまり気の合いそうなやつは居ないなー 講義の内容も、あんまり面白くなかった。 その真面目なやつらのレベルに合わせてる感じだった。それでもその日は、我慢して最後まで参加した。 そして、やっと終わってから教室を出ると、 偶然、隣の教室から出てきた、まさかの律也とばったり出くわした。 「おう、郁じゃん、久しぶり」 特に何も変わらない挨拶だった。 ちょっと意外だなーと思いながらも、僕は返した。 「へえー律也が補講に出てるなんて…何?心を入れ替えでもしたの?」 「暇潰しだよ、もうさー暇で暇で…」 「あははは、僕もおんなじー」 「お前が残ってるとは知らなかったわ。今夜来る?」 「え、うん…いいけど」 「じゃあ、待ってるねー」 そう言って律也は、特に変わった様子もなく、去っていった。 あのときは、あーんなに落ち込んでたのにな… 立ち直り早いんだなー そんな事を考えながら、僕も自分の部屋に戻った。 そしてその晩… 僕は久しぶりに、律也の部屋を訪れた。 「追試どうだった?」 「うん、まあねーバッチリだったよ」 「ホントかー?」 いつものように、缶ビールを飲みながら、他愛ない話をした。 2本めを開けながら…僕は切り出した。 「ホントはね、もう絶交されると思ってた」 「ははっ…ホントに?」 「うん」 「…実は、そうも思ったんだけど…」 律也はもう、3本めに突入していた。 「…聞いても…いいかな」 「…う、うん…何を?」 僕はちょっとドキドキしながら答えた。 「郁ってさあ…なんでゲイになったの?」 唐突な質問だなー 律也って、割と真っ直ぐな人…なんだよな。 「なんで…って、別にただ…たまたま好きになったのが男の人で…で、たまたま僕の周りにそういう人が多かったから…かなあ」 僕は、ありのままを答えた。 「へえーそんなもんなのか…」 「うん。もし好きになったのが女子だったら、こうはなってないと思う…」 「…好きな人…いるの?」 「うん」 「…今も?」 「うん!」 僕はキッパリと言い切った。 「…こ、この学院の人?」 「ううん。全然違う」 「どこの人なのっ?」 律也は半ば食い気味に訊いてきた。 「どこって…中学が一緒だった人…」 「どんなヤツ?今何してんの?」 「…別にいいじゃん、そんなこと」 僕はちょっとムッとして言った。 「えっ…ああ…そっか…そーだよな…」 律也は煙草に火をつけた。 そして、冷蔵庫からビールを2本取り出し…1本を僕に差し出した。 僕は、残りの2本めを、一気に飲み干した。 「…じゃあさ…その…」 3本めのタブに手をかけた僕に、彼はおずおずと、訊いてきた。 「初めて…したのは、いつ?」 ゴクン…と飲み干しながら、 僕はじっと回想した。 「初めては……中2だったかな…」 「やっぱり、その…好きな人と?」   「…」 僕は回想した… 初めて…したのは…… 僕は、いろいろ思い出してしまった。 ガンッ! 僕は、缶ビールをテーブルに叩き置いた。 「関係ないじゃん!なんであんたに…そんな根掘り葉掘り答えなきゃいけないんだよ!」 気付いたら僕は、律也に向かって大声で叫んでいた。 そしてソファーから勢いよく立ち上がり、くるっと向きを変え、ドアの方へ行こうとした。 「あっ…待って、郁っ」 律也も慌てて立ち上がり…僕を追った。 「ごめん!…ごめん、郁、悪かった。待って」 僕の肩を掴み… 彼はじっと…怒りに震える僕の目を見た。 そして下を向き… 少し恥ずかしそうに、言った。 「俺…考えたんだけど…」 そんな彼の様子を見て、僕はだんだん落ち着いてきた。 「お前こないだ、なんなら俺とも…って言ってたじゃん…俺とも…してくれんの?」 僕はちょっと驚いて、彼の目を見た。 彼も顔を上げて…僕の目をそっと見ながら続けた。 「俺…お前と…してみたい…」 「…!」 えええー。マジかー まさかノンケの律也がそんなこと言い出すとは、思ってなかった… 内心とてもビックリしたが… 平静を装って、僕は答えた。 「いいけど…何でまた、そんな気になったの?」 …と、僕が最後まで言い終わらないうちに、 彼は僕を思い切り抱きしめてきた。 「…ちょっ…律…」 「俺…」 僕の髪に頬を擦り寄せながら…律也は言った。 「俺…お前のこと…好きになったかも…」 「…」 しばらくそうして僕に巻きついていた彼の両腕の力が… 少しだけ緩まるのを待ってから…僕は言った。 「悪いけど…僕は…残念ながら律也のこと、今以上に好きには、ならないよ?」 そして彼の両腕を、静かに押し戻した。 「するのは、別に全然、構わないけどね」 「…そっか…」 律也はまた、下を向いた。 「それでも…する?」 彼は再び顔を上げて僕の目を見た。 そして…噛みしめるように、答えた。 「してみたい」 「…わかった」 そう言うと僕は… 自分から、律也の首に両手を伸ばした。 そして彼の顔を優しく押さえて、そのくちびるに、自分のくちびるを押しつけた。 「…ん」 律也も僕の身体を、再び思い切り抱きしめた。 いいのかなあ… まーでも、 この人もお金持ちだから、まいっか…

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