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暑苦しい日々(2)
それから僕らはすぐに届けを出し、
タクシーで(やっぱり律也は金持ちだ)割とすぐ近くのテーマパークに行った。
その日は平日だったが、夏休みということもあって、園内はそこそこ混雑していた。
律也は迷わずフリーパスを買つた(金持ちだから)
多少の待ち時間はあったが…
それでも昼過ぎには、ほとんどのアトラクションを制覇してしまった。
「だいたい乗ったな」
「うん、あとはあのデッカい観覧車だけじゃない?」
「そーだな…ま、あれは後回しでいっか。腹減った。何か食べよう」
「そーだね」
僕らは園内のレストランに入った。
適当に食事をして…
食後のコーヒーを飲みながら、律也が言った。
「俺たちってさあ…どんな風に見えんのかな」
「どんなって?」
「俺たち2人の関係ー」
そして彼は煙草に火をつけた。
僕にも1本差し出した。
「さあー別にただの友だちじゃないの?」
煙草を受取り、火をつけてもらいながら…
僕は素っ気なく答えた。
「そっかー…つき合ってる風には見えないかな」
「いや普通ないでしょ」
律也は何だか、1人で浮かれているように見えた。
でも僕は、それでもどーでもいいと思っていた。
どーせ、ぜーんぶ律也お支払いだしね。
その後僕らは、面白かったアトラクション…
特にジェットコースター系に何回か乗り…
それに飽きた後は、園内の広いゲーセンに行って、いろいろ遊んだ。
「もう4時だよ、そろそろ帰った方がよくない?」
少しずつ、帰っていく人の流れが目立ち始めた頃…僕は律也に言った。
「そうだな…じや、最後にあれ、乗っていこう」
そう言いながら彼は、僕の手を引っ張って観覧車の方は連れて行った。
これだけは、まだ乗っていなかった。
もう人が少なくなってきていたので、行列に並ぶこともなく、すぐに乗ることができた。
カチャっと扉が閉められ…
そこは小さな密室になった。
「わあーきれいー!…あっ見て、学院が見えるよ。あの塔、そうでしょ?」
だんだん高くなっていくにつれて、素晴らしい景色が広がっていった。
青々とした山の緑の中腹に、僕らの学院が小さく見えた。
僕はすっかり景色に見入っていた。
「…」
と、向かい側に座っていた律也が…
急に僕の隣に移ってきた。
移ってきたと思ったが早いが、僕の頭を抱き…
キスをしてきた…
「…!」
僕はビックリして、彼を突き放した。
「ちょっと、やめてよ…こんなとこで…」
「…ごめん」
律也はシュンとして、引き下がった。
そして再び向かい側に移った。
何だか寂しそうな表情になってしまった律也が、ちょっと可哀想になり…僕は取り繕うように言った。
「今日は楽しかった。ありがとうね、誘ってくれて」
「…そう?…よかった」
景色がだんだん遠くなって…
僕らは下に戻って…観覧車から降りた。
「帰る?」
「うん、帰ろう」
そして僕らは、その園を出てすぐに、
タクシーに乗って学院に向かった。
ずっと黙っていた律也は…
やがてタクシーが、学院へ続く山道のカーブに差し掛かった辺りで、運転手に声をかけた。
「この辺でいいです」
「…えっ、まだ少しあるけど。いいんですか?」
「大丈夫です」
不思議そうな顔の運転手に、彼は5千円を手渡した。
「釣りはいいです」
そして僕の手を引っ張って、車から降ろした。
バタン。ブロロロ…
薄暗くなり始めた山道に、僕ら2人を残して…タクシーは走り去って行ってしまった。
「なんで、こんな所で降りるの?」
僕は納得いかない表情で、律也に訊いた。
「いいじゃん…ちょっと歩こうよ」
僕らは歩き出した。
他に人通りは、全く無かった。
「郁は、いつまで寮にいるの?」
「うん…僕は8月の3日まで。それから1週間ちょっと帰って…またすぐ戻る」
「ふうーん…そうなんだ…」
「律也は?もうすぐ帰るんでしょ?」
「うん…31日に帰る。毎年、家族でオーストリアに行くんだ。向こうにコンドミニアムがあるんだ」
「さすがーいいなあー」
「別に…家族サービスだよ、しょうがねえって感じ。まあ、あっちで女の子と遊んでればいいんだけどさ…でも…」
律也が、僕の肩に腕を回してきた。
「でも…今年はあんまり…帰りたくないな…」
そう言いながら彼は、僕のくちびるに、自分のくちびるを重ねてきた。
そのまま僕の身体を、道路の片側のコンクリートに押し付けた。
「お前と…離れたくない」
ゆっくりくちびるを離してから、彼は続けた。
そして僕の顔を両手で抱え込むようにして、僕の目をじっと見つめた。
そんな彼の様子に…
さすがの僕も、いたたまれなくなって、言った。
「律也…誤解しないでよ?分かってるよね?」
「わかってるよ!」
僕の言葉を遮るように、再び彼はくちびるを近づけてきた。
そして力強く…僕を抱きしめた。
それから僕らは、20分くらい歩いてようやく学院にたどり着いた。
もう夕食の時間だったので、僕らは直接食堂へ行き、一緒に夕食を食べた。
「ごちそうさま。律也、今日はホントにありがとうね。じゃ僕…先に帰るね」
食べ終えて、
早々に僕は…部屋に戻ろうと席を立った。
すると、律也が、僕の手を掴んで言った。
「今夜も…来てくれるだろ?」
「えっ?今日もー?」
僕はちょっと驚いて、聞き返した。
「もちろん、ちゃんと払う…」
周囲に聞かれないような小さい声で、彼は付け加えた。
僕はしばらく答えに詰まったが…
結局、承知した。
「…わかったよ、行くよ…」
「じゃ、待ってるね」
そして僕は…束の間、やっと部屋に戻った。
ホントに、わかってるのかな…
いや、絶対わかってないな
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