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爽やかな日々(1)

「冬樹っ!」 全身をビクッと振るわせて、僕は飛び起きた。 ふうーー 夢だったのか… 傍の時計を見た。まだ2時前だった… なんで、こんな夢、みたんだろう… 僕はタオルケットを頭までかぶって、目を閉じた。 冬樹… 自然と涙が、溢れてきた。 冬樹…会いたいよ 君に会いたい… 君に触りたい… いつまでも涙が止まらなかった。 そしてそのまま、僕は泣き寝入ってしまった。 明けて次の日 結城が、僕を迎えに来てくれた。 例の封筒だけ、ズボンのポケットに押し込んで… 僕は部屋を出た。 事務局の受付に部屋の鍵を預け、手続きを済ませて、僕は玄関を出ると、 「お待たせ」 「やあ、元気そうだね…」 車の前に、結城が立っていた。 珍しくTシャツにジーンズという、ラフな格好だった。 そして彼は僕の肩をポンと叩き、助手席のドアを開けた。 僕が座ると、彼はドアを閉め、自分も運転席に乗り込み、車を発進させた。 走る車に揺られながら、僕は結城に話しかけた。 「結城さんのそういう格好、初めて見た」 「そうだった?」 「結城さんも、完全に夏休みなの?」 「まあ、一応ね」 僕らは結城の別荘で夏休みを過ごすことになっていた。 「学校、どう?面白い?」 「うーん…まあまあ」 「お前にピッタリのクラブがあったろ?」 「もー!やっぱ知ってたんだー」 「はははっ…まあね」 「もー嫌んなっちゃうよー僕は至って普通にやっていこうと思ってたのに…」 「で、どうだった?好きなヤツでもできた?」 「まさか。そんなのはないよ」 僕はポケットから、例の封筒を取り出して、結城に手渡して、言った。 「そんなのはないけど…こんな感じになりました」 信号待ちの隙に、結城はその中身を覗いた。 「マジか…お前、凄いな…」 「だって、金持ちが多いんだもん。なんだか、いいのかなあーって感じ…」 信号が青に変わったので、結城はそれを僕の方に返した。 「これ、結城さんに献上するから、学費の足しにでもして」 「ははっ…いいよ、お前名義の口座作っとくよ」 「…でも」 「もし私の会社が倒産して、借金に追われることになったら、そん時はお前の稼ぎに頼る」 「くっくっくっ…そうなの?」 「ああ…」 そう言いながら彼は、片手を僕の頭に乗せ…髪の毛をくしゅっと撫でた。 やがて車はインターを抜けて高速道路に入った。 いい天気だった… 「その、結城さんの別荘って、どこにあるの?」 「軽井沢の奥の方…」 「どんなとこ?」 「まあ何もない…静かな所だよ」 2時間くらいは走っただろうか… やがて車はインターから一般道へ出て、賑やかな軽井沢の街並みを抜けて…山道へ入っていった。 「なんか、学校とあんまり変わんないね…」 「くっくっくっ…そう言われてみれば、そうだな」 そして山道から…更に細い砂利道をしばらく入って行った所に、その別荘は建っていた。 黒い鉄格子の門で、結城は車を止めた。 ダッシュボードから、何やら小さいリモコンみたいなのを取り出して、僕に渡した。 「押してみて」 僕がそのリモコンのボタンを押すと… 鉄格子の門が、ギイイーっと、開いた。 「すっごーい!」 そして車は門の中に入り、玄関の前で止まった。 結城は車を降りると…助手席のドアを開けてくれた。 僕はゆっくり…辺りを見回しながら、車から降りた。 何ここ…外国? 洋風の…まさに映画にでも出てきそうな、美しい建物だった。 庭の芝生や植木もきれいに手入れされていて… その向こうには、小さいプールも見えた。 またギイーっていう音が聞こえたので、後ろを見ると、門が勝手に閉まっていた。 「すごいなー」 結城は鍵を回して、玄関の扉を開けた。 建物の中も、とても素晴らしかった。 大きな柱時計と、その横には大きな螺旋階段… 「ホントに外国の映画の中にいるみたい…」 「とりあえず、いったん荷物置いて、ちょっと休んだら買い物に行こう。お腹空いただろ?」 「うん」 それから僕は、結城はが車から荷物を下ろして中へ運ぶのを少し手伝った。 リビングのソファーに座って、ちょっと一服してから、僕らは再び車に乗って、出かけた。 黒い門を開けるリモコン操作は、僕の係になった。 「夜は知ってる店に連れてってやる予定だけど、昼は何でもいいよな?」 「もちろん。僕なんてホントに…食べれる物なら何だっていーんだからね」 「くっくっ…そうなのか?」 まず僕らは、こっちで結城の行きつけらしい店に寄り、僕の着替えや水着なんかを買ってもらった。 結城はカードで支払いを済ませた。 食事は結局、街中のおしゃれなパン屋でテイクアウトすることにした。 何でもいいよという結城の分も、僕が選んで、トングでトレーに積んだ。 「へえーパンってこうやって買うのか」 結城が呟いた。 しかもレジで、 「カードは使えないのか?」って、言い出したので、 僕は急いで彼から財布を預かって…現金で支払った。 別荘へ戻る車の中で、結城は言った。 「お前がいてくれて助かったわ。俺1人だったら、どうやって買っていいのかわかんなかった…」 あ、久しぶりに俺って言った てか、普段どーいう生活してんだ、この人…

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