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のこりのなつやすみ(4)
僕は、ゆっくり藤森の中から抜き出した。
彼の身体を、きれいに拭いて…
そして、バタッとベッドに倒れた。
やり切った感の、僕の心と頭には…
また、あの鉛の感覚が蘇ってこようとしたが…
それより先に、寝入ってしまうほど、僕は疲れていた。
藤森は、起き上がり、
僕の身体にタオルケットをかけた。
そして服を着て…部屋を出て行った。
ドアが閉まる、バタンという音を微かに聞きながら…
寝入り端に、僕は思った。
あーそうか…
こうすれば…眠れるんだ…
その夜、藤森は帰省する予定だった。
荷物をまとめて、カバンを持った彼は、
学院を出る前に…僕の部屋に寄った。
コンコン。
返事はなかった。
彼がそっと部屋に入ると…
僕はまだ、朝と同じ状態で、ベッドの中にいた。
「郁、郁、起きて」
「…う…ん…」
「もう夕食の時間だよ」
藤森は僕を揺り起した。
「…う…ん…なに?」
「食堂に行こう。食べなきゃダメだ。起きて」
僕は彼に身体を起こられ…渋々ベッドから降りた。
そして、彼が出してくれた服を着て、鏡の前で髪をとかした。
そして彼に連れられて部屋を出た。
「これから…帰るんだ」
藤森の荷物を見て、僕は訊いた。
「ああ。でもお前がちゃんと食事とれるか心配だ」
「…ありがとう、大丈夫だよ」
僕らは食堂に入った。
ポツンポツンと、生徒が座っていた。
その中に、正田の姿があった。
藤森は、僕の腕を掴んで近寄っていった。
正田が僕らに気付いた。
「あれー珍しいツーショットだね」
そして藤森は、僕を正田の隣の席に座らせた。
「私はこれで帰らなければならないんだ。こいつを頼んでもいいか?」
「いいですよー」
「食べさせて…また部屋に連れてって欲しい」
「了解」
「じゃあね…」
僕の耳元で、そう言って…
藤森は、僕らを残して出て行った。
正田は、僕の方を向いて言った。
「どうした?具合悪くなった?」
「ううん…大丈夫」
「ちょっと待ってろ」
彼はカウンターへ行き、
僕の分の食事を持ってきてくれた。
「…どうも、ありがと」
僕は食べ始めた。
でも、そんなにお腹は空いていなかったし…
なんだか胸が詰まって…あまり食べられなかった。
「ごめん…もう食べれない…」
「もういいの?少食だなー」
特に気にも留めない感じで、彼は立ち上がった。
「じゃあ行こう。部屋まで送る」
正田は僕の腕を取った。
そして僕らは、僕の部屋まで歩いていった。
「お前、もうずっといるの?」
「…うん」
「じゃ、知り合いに声掛けといていい?金持ってるヤツばっかりだからさ」
「…うん」
僕の部屋のドアの前まできて…僕は彼に言った。
「ありがとう。おやすみ…」
「それだけ?」
「…」
「ま、いいや。俺も明日またいったん帰るから、準備もしなきゃいけないし…じゃあね」
ちょっと答えに詰まった僕に、
正田はそう言い残して、くるっと向きを変えた。
そして僕も、自分の部屋に入った。
僕は、服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。
昨夜のままだったので、まずとにかく、身体をきれいにしたかった。
シャワーの流れる雫を見ていると…
やはり僕は…
思い出してしまった。
茂樹に犯られて汚れた僕の身体を、
冬樹がきれいにしてくれた…
あのときはホントに…
冬樹がいてくれる有り難さが身に染みたっけ…
今の僕も…
冬樹がいてくれたら、きれいになるのかな…
いや、だって…
冬樹はもういないんだから…
僕はもう二度と…
きれいな身体にはなれないのか
僕は愕然とした。
そしてまた、心に鉛の塊が蘇った。
そのまま僕は…その場にへたり込んだ。
「うっ…ううっ…」
シャワーに打たれながら…僕は泣いた。
冬樹…
冬樹冬樹冬樹…
冬樹冬樹冬樹冬樹…
「あああーーっ…」
僕は思い切り頭を左右に振った!
そして濡れた手で、顔を何度もこすった。
ダメだ。ダメだ。
もう、どーうしても、ダメだっ!
シャワーを止め、僕は急いで身体を拭き…
今脱ぎ捨てた服を着た。
1人になりたくない!
どーうしても、1人になりたくない!
濡れた髪のまま…僕は部屋を飛び出した。
そして廊下を走って…正田の部屋に向かった。
彼の部屋の前にたどり着くや否や
凄い勢いで、ドンドンとドアを叩いた。
カチャッ
「はい?」
正田が出てきた。
その瞬間、僕は荒い息を飲み込み…
冷静な表情を繕った。
「あれ?どうしたの?」
僕を見て彼は、ちょっと驚いた様子だったが…
僕は努めて落ち着いた口調で言った。
「やっぱり…泊まってもいいかな…」
「もちろん、どうぞ」
正田はすぐに答え、僕を部屋に招き入れた。
ソファーの向こうにテレビがあった。
ビデオの画面が、一時停止になっていた。
よく見ると…
男女が絡んでる、普通のエロビデオだった。
「…こんなのも観るんだ」
「ははっ…1人で暇だったからさ。観る?」
そう言って彼は、リモコンのボタンを押した。
画面が動き出した。
「お前…女としたことあるん?」
「…あるよ」
「へえええーホント?どーなの?どっちがいいの?」
「…たぶん、別にどっちでも」
画面の中女が、男の上に馬乗りになった。
そして男が、女を揺さぶり始めた。
こんな光景に見覚えがあった…
確か、そう…あの店で…冬樹が
冬樹が…
何かが込み上げてくるのを、必死に押し込みながら…
僕は急いでリモコンを取り上げ、
画面に向かってボタンを押した。
画面がプツンと消えた。
「あれ、消しちゃうの?」
そして、正田の前に立ちはだかった。
心を落ち着けながら…
彼の目の前で、徐にシャツのボタンを外し…
下着ごと、ズボンも脱いだ。
「だって、こんなの観てたら、やりたくなったんじゃないの?」
そう言いながら僕は、ソファーに腰かけている正田の足元にしゃがみ込んだ。
彼のズボンのファスナーを下げ…
下着をずりおろして、彼のモノを引っ張り出し
それを口に含んだ。
「ふふっ…」
正田は僕の…まだ濡れた髪を弄びながら、
壁に手を伸ばし…部屋の電気を消した。
しばらく僕の舌の感触を愉しんでから
彼はゆっくり僕の頭を離し…
そして僕を抱き上げ、ベッドに運んだ。
「後払いでいいか?」
「…ん」
それを聞いて…
僕の心はまた、しゃんとした。
正田の手慣れた愛撫は心地良かった。
僕は何度も快感の波に身を任せた…
そしてそのまま、
正田の腕の中で…ぐっすり眠れた。
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